NOVEL

花信風

第6話 エイラート-王

白いテーブルクロスの上には小さな花瓶があるだけだった。 お茶の支度は本当にセランにやらせるらしく、彼は出ていったまままだ戻ってこない。「そんなに硬くならないで頂戴?」「はい……」 と、言われても、こちらもどういった用件で呼ばれたのか分からな...
花信風

第5話 ルイス-太后

暮れ行く外を眺めていると、いつの間にか室内は暗闇に満ちていた。それが嫌で慌てて燭台についている蝋燭に火をつけて室内を照らす。 暗い所は嫌い。見たくないものを思い出させるから。 だから、室内に灯った明かりを見てほっと一息つく。 それと同時に扉...
花信風

第4話 駆け引き

「おおっ、まさに直球。もう少し上手く聞いてくるかと思ったけどなー」「あなたとの会話に時間を割く気はないの」 情報をくれなければ意味がないのよ、と暗に示す。 本当の所、セランのような人物って駆け引きしようとでもすれば、いくらでものらりくらりと...
花信風

第3話 バレリー候-後見人

今の私は自室へと戻って窓の外を眺めている。その間もセランの言葉の意味を考えていた。『あんたは貴族の中では低めの家柄だけど、後見人がバレリー候だからだ』 バレリー候――レヴィ・バレリーは私の後見人。身分では侯爵になる。 でもそれがどうして厄介...
花信風

第2話 セラン-王弟

後宮といえど中は結構広いもので、探すと一人で居られる所はあちこちにあった。 特に外。貴族の令嬢たちは自分を磨くことと世間話に夢中で、外に出ることは少ない。 ベランダから少しくらいなら気晴らしに歩くようだが、それ以上まで歩く酔狂な人物はどうや...
花信風

第1話 後宮へ

私が生まれたのはアプライザル大陸中央にあるフィアネル王国だった。 この国は内地のため海がない。でも万年雪が残る高い山脈があるため、川が多く水に困ることがなかった。おかげで万年豊作続きの豊かな国だ。紛れもなく恵まれている国に入るだろう。 けれ...
薔薇庭園

番外編 その後の攻防

おなかすいた。 おなかすいた。 おなか、すいた。 ……………………………………………………………… ……………………………………………………………… ……………………………………………………………… ああ、なんか考えているのが馬鹿らしくなっ...
ラ・ペルラ

025 聖地での朝の会話

聖地と言われるだけあって、そこはまるでどこかの修道院のような生活ぶりだった。 ぶり、というのは私自身がそういう生活をしていなくて、話とかで得た知識からそんな印象を受けたから断定はできない。 でも、朝早く起こされて大きな部屋に連れて行かれて、...
ラ・ペルラ

024 時には逃げるという選択肢も必要なのだ

タマキちゃんとの間で話がまとまった。 もう一度、二人の関係を口にしてタマキちゃんに確認を取る。「じゃあ、おさらいでこんな感じでいい?」「はい。それと偶然だけどここに一緒に来たことで、私がミオさんと離れたくないって言うんですよね。やっと会えた...
ラ・ペルラ

023 逃げ出すための口裏あわせを

コホンと咳払いを一つして気を取り直す。「ええと、見苦しいところを見せちゃって悪かった。アイツのことを言われると、どうしても拒否反応が出てねぇ……」「いえ、それにしてもミオさんって、そんなにアスル・アズールさんのことが嫌いなんですか?」 綺麗...
ラ・ペルラ

022 乙女会談

ここに来てだいぶ経つせいか、タマキちゃんは人見知りはするものの慣れた感じでお茶を入れてくれた。 タマキちゃんの様子を見ていると、カップを目の間に出される。「どうぞ」「あ、ありがと」「いいえ。でも嬉しい。私にも同じような人がいて――」 少し涙...
BHVSCP

番外編 呼び方

この国はスールという。隣国に比べたら領土は比較的小さい。けれど、ここでしか取れない特殊な鉱物のため、国は豊かといえた。 しかし、ある時王位継承の問題で国内は荒れた。まるで戦争でもしたのかと思われるほど酷かった。 それは国内だけでなく、その問...
BHVSCP

第10話 物語はハッピーエンドで〆るもの?

結局、自分の思うようにしか動かないユージアルを、どうにかしようなんて考えるほうが馬鹿らしくて、私はあっさり黙り込んだ。 その間もクリードさんとヒュウが文句を言ってくれているので、そちらに任せる。 私はというと、起きてしまったルチルの相手。お...
BHVSCP

第9話 プロポーズ?

この状況でこんなことをされるとは思わなかった。さすがに想定外のことばかり続くし、今もそれを上回る感じだったのですぐに反応できない。 だけど他に人がいることを思い出し、大きく見開いていた目を少し横にずらしてみる。 するとそこには呆れた顔のクリ...
BHVSCP

第8話 解決一歩手前?

なにがなにやら……この展開にまったく理解できずに黙っていると、扉が開いた。 そこにはクリードさんとヒュウ、そしてテルルさんに抱えられた子ども――私だと確認すると、急にテルルさんから飛び降りてこちらに向かってくる。「フォリーお姉ちゃぁんっ!」...
BHVSCP

第7話 窮地?

こういう時はどう対処すればいいのか、師匠は教えてくれなかった。 そもそも、師匠は男の人だから、こういう状況になることはないんだろうけど。 どちらかというと、拘束される前に逃げろと叩き込まれてたんだっけ。ああ、拘束された時の対処法もちゃんと教...
BHVSCP

第6話 裏事情

剣を握り締めて立ち竦んでいると、どこからかまた名前を呼ばれる。「誰!?」「フォルマリール様!」 ええと、この声は……「テルル……さん?」「大丈夫ですか?」「大丈夫というより……テルルさんこそ、なんでここに?」 この時間、テルルさんは他の事を...
BHVSCP

第5話 剣試合

ヒュウェット王子と剣を交えるのに、着替えるかと尋ねられたけど断った。「しかし、それでは動きにくいだろう?」「まあね。でもこういうのに慣れておくのもいいかなって」 なんかここから逃げられそうにないし、それならこの格好でもうまく立ち回れるように...
BHVSCP

第4話 お気に入り度は何パーセント?

「……今まで八つ当たりで物を投げられたことがないわけではないが、遠慮なく本を投げてくる女は初めてだ」 投げた本は見事に王子――ユージアルの顔に直撃した。角ではなく平面が当たったから痛みは少ないだろうけど、代わりにユージアルの顔全体が赤く染ま...
BHVSCP

第3話 和やかムード?

私はいったい何をしているのだろう? そう思いながら、窮屈なテーブルマナーで料理を食べる。いやこれは食べるとは言わない。美味しいのかもしれないけど、味が全然分からないほど緊張していて、細かく砕いた食べ物を飲み込んでいるだけだった。 しかも極力...
BHVSCP

第2話 シンデレラの作り方

泡いっぱいの浴槽に突っ込まれると、体勢を整えるまもなく押し込まれて、そのまま柔らかい布でごしごしと擦られる。さすがにこれだけ力を入れて熱心にされると、柔らかい布でも痛くなってくる。 溜まった十日間の垢を――いや、それ以上取るかのように擦られ...
BHVSCP

第1話 久しぶりの王都

「おめでとうございます!!」 明るい声と共に、パチパチパチといういくつもの拍手と、そしてそこに集まる人たちの笑顔――それが王都サフィリンに辿り着いた私に向けられたものだった。 いったい何事!? と思うのは仕方ないだろう。 ちなみに喜んでいる...
ラ・ペルラ

021 聖地と乙女

魔法とは便利なシロモノである、と改めて思ったのは聖地へ行く時だった。 日本でなら新幹線、もっと早くしたいなら飛行機――と交通に関してはそんな感じだろう。 でもここには魔法がある。フィデールの説明によれば移動の魔法は主に二つあるという。 一つ...
ラ・ペルラ

020 動揺

『早く乙女だと認めてしまえ。乙女なら、今のフィデールの状況もいい方向へ持っていくことが出来る。乙女の発言は、絶対なのだから』 耳元で囁かれる言葉は甘く、普通の女ならコロっと落ちてしまいそうな感じ。 でも、知っててやってるんだろうな、などとど...