NOVEL

ラ・ペルラ

031 それぞれの思い(フィデール→ミオ)

~ フィデール ~ かすかに聞こえる波の音を聞きながら、木陰でのんびりと女性をお茶を飲む。 ――こんな日が来るなんて思いもしなかった。 まあ、ミオさんは……女性、という言葉でくくるには少し規格外な人だけれど。 でも、意外なことに、静かな雰囲...
ラ・ペルラ

030 考察(フィデール→ミオ)

~ フィデール ~「ミオさんっ!」 知らずに掴んでいたミオさんの腕。 そして自分でも信じられない程の大きな声で彼女の名を呼んでいた。 その声の大きさに驚いたのか、ミオさんは一瞬動きが止まる。「どうしたんですか?」「……。いや、どうしたもどう...
花信風

番外編-1 移り変わる日々

あれから他の人たちはみな戻っていった。そしてこの王妃の間に、王――エイラートと私の二人きりになった。 私たちは、スサナが出してくれたお茶を間の机において、向かい合うように座っている。「何か言うことがあるんじゃなくて?」 自分から語ろうとしな...
花信風

第23話 そして暖かな風が吹く

軽い頭痛を感じつつ、それでも知りたいという気持ちのほうが勝つ。 そのため私にしては辛抱強く、チェティーネ様の話を聞いたと思う。 半分は愚痴だったけれど。「本当に失礼しちゃうわ。初恋の相手はどう考えても無理そうだから、その人と違う人を選んだ、...
花信風

第22話 逆転

「大丈夫ですか? お水でも貰ってきましょうか?」 部屋に入って長椅子に座ると、ふう、とため息をつく。するとスサナが心配そうに尋ねた。 最初の頃では信じられないほど、スサナは献身的に尽くしてくれる。そんな彼女を道連れになんて出来なかった。「そ...
花信風

第21話 裁きの場

私は人がたくさん居る部屋の中央に立っていた。隣には怯えているスサナがいる。 更に両脇にはいかにも騎士という風情の男性が二人、私から目を離さない。戒めはないものの、不審な行動をしたらどうなるか、一目瞭然だろう。 当然といえば当然な措置。今の私...
花信風

第20話 王の望むもの

父を殺して血塗れになり、あげく弟を殺され、信頼していた人も亡くし――それでも彼はその心を隠して、非情な王を演じていたのだ。 誰にも知られることなく。 ……って、可笑しいわ。ルイス様はある程度知っていたもの。 そして、その頃、一番信頼していた...
花信風

第19話 真実-3

『セラン』が私に動揺するようなことを教えた後、王が関わってきていた。私が動揺で上手く動けない時に、まるで狙ったように声がかかった。 もしかしたら情報を小出しにしていたのも、私が色々考える時間を作っていたのかもしれない。 なら、今ならお父様の...
花信風

第18話 真実-2

「四年前……あの子はエイラートの代わりに命を落としたの」 ルイス様の声に反応するかのように、一陣の風が吹き抜ける。 冷たくなってきたその風は、これは夢でなく現実なのだと無言で告げていた。「そんな……」「エイラートはそれで自分を責めて――私に...
花信風

第17話 真実-1

一瞬、スサナの言ったことが理解できなかった。 もちろんスサナが遠慮がちに言ったせいもある。はっきり『妊娠している』と言われたほうがまだ理解できたかもしれない。 けれど、それを理解しても信じられなかった。 私の中で、明らかにその可能性を考えな...
花信風

第16話 崩壊の兆し

スサナを味方にするのは簡単だった。 お姉さんが彼女の鎖になる――それに付け込むのは卑怯だと思うけど、なりふり構ってはいられなかった。でなければ、間違ってセランが殺されることになる。 今でも王のことは憎い。 でも、それだけでなくなっているのも...
花信風

第15話 味方

スサナの答えが出るまでどれくらいかかったか――ものすごく長かった気もするし、そんなに長くもなかった気もする。 それにしてもスサナの覚悟はどれくらいなのかしら? 自分の命を惜しまない程だとしたら、どうすればセランのことを上手く説明できる? ど...
ラ・ペルラ

029 衝撃(タマキ→ミオ→フィデール)

~ タマキ ~「偽物を残して何の意味があるんですか?」 自虐的な言葉。 でも紛れもない事実だ。私は偽物なのだから。 それでも、はっきり認めたら、今まで抱えていた心の中の霧が一気に消えていくようだった。 アスル・アズールさんはすぐに答えない。...
ラ・ペルラ

028 考察(アスル・アズール→タマキ)

~ アスル・アズール ~ どうしたいのかと尋ねても、タマキはなかなか口を開かない。 言いにくいことだというのは分かる。が、切り出した以上はきちんと話をして欲しいものだが――「ふう……話したくないのなら無理に聞く気はない。だが、次はないと思っ...
花信風

第14話 詰問

改めて決意したくせに、いつの間にか私は逃げていた。 あの日から、セランはニ、三日に一度は必ず訪れ、ただ黙って私を抱いた。私も何も言わず受け入れた。 その間に、生み出すものは何もない。 生み出すものはないけれど、体を重ねることで一時的にでも心...
花信風

第13話 意外な気の散らし方

ルイス様はどうしてあんな風に泣いたのかを尋ねることはなかった。ルイス様も昔そうやって泣きたい時でもあったのかもしれない。だから分かってくれたのかもしれない。 私は泣いてすっきりしたのか、朝より落ち着いた気持ちで自分の部屋へと戻った。 部屋の...
花信風

第12話 不安定な心

あの夜を境に私の中で何かが変わった……ような気がする。 次の日の朝、目覚めると一人だった。どうやらセランは人が来る前にいなくなっていたらしい。 昨夜、セランは私を抱きしめたままで終わった。それでも体には男性がつける香料がわずかに残っている。...
花信風

第11話 夜の訪問者

日が暮れて自室へ戻り、明かりをつけた。体をきれいにした後も、まだ眠るのは早かったので、借りていた本を手にとって寝台へと移動する。 |後宮《ここ》にも書庫があって、主に女性の教養のためのものが多いけど、それなりに色々な本がある。 これはその中...
ラ・ペルラ

027 ミオ、覗き見する(ミオ→アスル・アズール)

軽く扉を叩いて、しばらくしてそっと開けた。 タマキちゃんの所に来る人は限られている。それに時間通りならタマキちゃんはお茶の用意をして待っていてくれる。 でも今日はアスル・アズールもいるから、ちょっとだけ開けて中を確認する。「おはようございま...
ラ・ペルラ

026 図星だと答えに困る

アスル・アズールと二人で白い廊下を歩く。 黙っていれば普通なのになぁ、などと思っていると、それを察したかのように尋ねてくる。「そういえば、彼女はいつからここに居るんだ?」「は? なに言ってんの。私と同じだって言ってたじゃないか」「そうか? ...
花信風

第10話 トールー師

次の日、王は体調が優れないとのことで、しばらくの間、後宮は静かになるとミセス・ムーアから話があった。「もしかして彼女の風邪が移ってしまったんではなくて?」「そうかもしれないわね。だって、ここにいて唯一相手にされない気の毒な方ですもの」「毎晩...
花信風

第9話 マレコットー侍女

気づくと外は真っ暗になっていた。隣にセランの姿が見当たらない。 だるい体を何とか上げて周りを見回すと、私を連れてきた侍女の姿が目に入った。 なっ……、なんでこんな所に人がいるのよ!? ものすごく心臓に悪いわ!「お目覚めですか?」「……………...
花信風

第8話 傾国

口の中に血の味が広がり吐き気を誘う。 けれど、声など上げたくなかった。だから必死になって唇を噛んで耐えた。「初めてだったんだな」 セランは私の髪を撫でながら少し意外そうに言う。 そうでしょうね。後宮にいるし、セランに対しても、情報との取引に...
花信風

第7話 不意打ち

テーブルの下に隠した指が微かに震える。 それをルイス様に気づかれないよう、せめて表情だけでもと無理やり笑う。 悟られてはいけない。笑わなくてはいけないのに。「どうしたの?」「いえ、あの……」 それでもやはり気づかれてしまう。 そうよね、いき...