花信風

花信風

番外編-2 あい(愛or相)変わらず?

人は多少の緊張感を持ちながら生きるのがちょうどいい、と最近思う。 なぜそう思ったのか――めでたく男の子を産み、そしてスサナに手伝ってもらいながら、その子を育てるという生活のみだったから。 子供が、子育てが嫌というわけではなかった。自分が子供...
花信風

番外編-1 移り変わる日々

あれから他の人たちはみな戻っていった。そしてこの王妃の間に、王――エイラートと私の二人きりになった。 私たちは、スサナが出してくれたお茶を間の机において、向かい合うように座っている。「何か言うことがあるんじゃなくて?」 自分から語ろうとしな...
花信風

第23話 そして暖かな風が吹く

軽い頭痛を感じつつ、それでも知りたいという気持ちのほうが勝つ。 そのため私にしては辛抱強く、チェティーネ様の話を聞いたと思う。 半分は愚痴だったけれど。「本当に失礼しちゃうわ。初恋の相手はどう考えても無理そうだから、その人と違う人を選んだ、...
花信風

第22話 逆転

「大丈夫ですか? お水でも貰ってきましょうか?」 部屋に入って長椅子に座ると、ふう、とため息をつく。するとスサナが心配そうに尋ねた。 最初の頃では信じられないほど、スサナは献身的に尽くしてくれる。そんな彼女を道連れになんて出来なかった。「そ...
花信風

第21話 裁きの場

私は人がたくさん居る部屋の中央に立っていた。隣には怯えているスサナがいる。 更に両脇にはいかにも騎士という風情の男性が二人、私から目を離さない。戒めはないものの、不審な行動をしたらどうなるか、一目瞭然だろう。 当然といえば当然な措置。今の私...
花信風

第20話 王の望むもの

父を殺して血塗れになり、あげく弟を殺され、信頼していた人も亡くし――それでも彼はその心を隠して、非情な王を演じていたのだ。 誰にも知られることなく。 ……って、可笑しいわ。ルイス様はある程度知っていたもの。 そして、その頃、一番信頼していた...
花信風

第19話 真実-3

『セラン』が私に動揺するようなことを教えた後、王が関わってきていた。私が動揺で上手く動けない時に、まるで狙ったように声がかかった。 もしかしたら情報を小出しにしていたのも、私が色々考える時間を作っていたのかもしれない。 なら、今ならお父様の...
花信風

第18話 真実-2

「四年前……あの子はエイラートの代わりに命を落としたの」 ルイス様の声に反応するかのように、一陣の風が吹き抜ける。 冷たくなってきたその風は、これは夢でなく現実なのだと無言で告げていた。「そんな……」「エイラートはそれで自分を責めて――私に...
花信風

第17話 真実-1

一瞬、スサナの言ったことが理解できなかった。 もちろんスサナが遠慮がちに言ったせいもある。はっきり『妊娠している』と言われたほうがまだ理解できたかもしれない。 けれど、それを理解しても信じられなかった。 私の中で、明らかにその可能性を考えな...
花信風

第16話 崩壊の兆し

スサナを味方にするのは簡単だった。 お姉さんが彼女の鎖になる――それに付け込むのは卑怯だと思うけど、なりふり構ってはいられなかった。でなければ、間違ってセランが殺されることになる。 今でも王のことは憎い。 でも、それだけでなくなっているのも...
花信風

第15話 味方

スサナの答えが出るまでどれくらいかかったか――ものすごく長かった気もするし、そんなに長くもなかった気もする。 それにしてもスサナの覚悟はどれくらいなのかしら? 自分の命を惜しまない程だとしたら、どうすればセランのことを上手く説明できる? ど...
花信風

第14話 詰問

改めて決意したくせに、いつの間にか私は逃げていた。 あの日から、セランはニ、三日に一度は必ず訪れ、ただ黙って私を抱いた。私も何も言わず受け入れた。 その間に、生み出すものは何もない。 生み出すものはないけれど、体を重ねることで一時的にでも心...
花信風

第13話 意外な気の散らし方

ルイス様はどうしてあんな風に泣いたのかを尋ねることはなかった。ルイス様も昔そうやって泣きたい時でもあったのかもしれない。だから分かってくれたのかもしれない。 私は泣いてすっきりしたのか、朝より落ち着いた気持ちで自分の部屋へと戻った。 部屋の...
花信風

第12話 不安定な心

あの夜を境に私の中で何かが変わった……ような気がする。 次の日の朝、目覚めると一人だった。どうやらセランは人が来る前にいなくなっていたらしい。 昨夜、セランは私を抱きしめたままで終わった。それでも体には男性がつける香料がわずかに残っている。...
花信風

第11話 夜の訪問者

日が暮れて自室へ戻り、明かりをつけた。体をきれいにした後も、まだ眠るのは早かったので、借りていた本を手にとって寝台へと移動する。 |後宮《ここ》にも書庫があって、主に女性の教養のためのものが多いけど、それなりに色々な本がある。 これはその中...
花信風

第10話 トールー師

次の日、王は体調が優れないとのことで、しばらくの間、後宮は静かになるとミセス・ムーアから話があった。「もしかして彼女の風邪が移ってしまったんではなくて?」「そうかもしれないわね。だって、ここにいて唯一相手にされない気の毒な方ですもの」「毎晩...
花信風

第9話 マレコットー侍女

気づくと外は真っ暗になっていた。隣にセランの姿が見当たらない。 だるい体を何とか上げて周りを見回すと、私を連れてきた侍女の姿が目に入った。 なっ……、なんでこんな所に人がいるのよ!? ものすごく心臓に悪いわ!「お目覚めですか?」「……………...
花信風

第8話 傾国

口の中に血の味が広がり吐き気を誘う。 けれど、声など上げたくなかった。だから必死になって唇を噛んで耐えた。「初めてだったんだな」 セランは私の髪を撫でながら少し意外そうに言う。 そうでしょうね。後宮にいるし、セランに対しても、情報との取引に...
花信風

第7話 不意打ち

テーブルの下に隠した指が微かに震える。 それをルイス様に気づかれないよう、せめて表情だけでもと無理やり笑う。 悟られてはいけない。笑わなくてはいけないのに。「どうしたの?」「いえ、あの……」 それでもやはり気づかれてしまう。 そうよね、いき...
花信風

第6話 エイラート-王

白いテーブルクロスの上には小さな花瓶があるだけだった。 お茶の支度は本当にセランにやらせるらしく、彼は出ていったまままだ戻ってこない。「そんなに硬くならないで頂戴?」「はい……」 と、言われても、こちらもどういった用件で呼ばれたのか分からな...
花信風

第5話 ルイス-太后

暮れ行く外を眺めていると、いつの間にか室内は暗闇に満ちていた。それが嫌で慌てて燭台についている蝋燭に火をつけて室内を照らす。 暗い所は嫌い。見たくないものを思い出させるから。 だから、室内に灯った明かりを見てほっと一息つく。 それと同時に扉...
花信風

第4話 駆け引き

「おおっ、まさに直球。もう少し上手く聞いてくるかと思ったけどなー」「あなたとの会話に時間を割く気はないの」 情報をくれなければ意味がないのよ、と暗に示す。 本当の所、セランのような人物って駆け引きしようとでもすれば、いくらでものらりくらりと...
花信風

第3話 バレリー候-後見人

今の私は自室へと戻って窓の外を眺めている。その間もセランの言葉の意味を考えていた。『あんたは貴族の中では低めの家柄だけど、後見人がバレリー候だからだ』 バレリー候――レヴィ・バレリーは私の後見人。身分では侯爵になる。 でもそれがどうして厄介...
花信風

第2話 セラン-王弟

後宮といえど中は結構広いもので、探すと一人で居られる所はあちこちにあった。 特に外。貴族の令嬢たちは自分を磨くことと世間話に夢中で、外に出ることは少ない。 ベランダから少しくらいなら気晴らしに歩くようだが、それ以上まで歩く酔狂な人物はどうや...