NOVEL

リチェルカーレ

第9話 世界の下で

人界において二十年に一度の大祭が訪れた。世界の中心である柱の国は人々が集い賑わう。その人数は五年ごとの祭りの比ではなかった。どこもかしこも人が溢れているような状態だ。 王宮でも開いている部屋がないほどの来賓の数で、王であるアルベールは休むま...
ラ・ペルラ

019 悪魔のささやき

結局、私はフィデールに諭されて離宮に戻った。 場所は分かるかとの問いに、ただ頷くだけで精一杯で、フィデールの顔をちゃんと見れなかった。 人に会わないようにこそこそと歩いて離宮へと戻る。来る時は興味津々な状態だったのに、今は見る影もない、って...
ラ・ペルラ

018 本当の優しさ

叫ぶだけ叫んで、私はその場所を後にした。 身分、ってのに全然縁がなく生きてきたせいか、身分という壁のせいでその人自身を見ないこの世界に対してものすごく悔しく感じて。 特に、似ていると思っていたアスル・アズールさえ、そんな考えだったが信じられ...
ラ・ペルラ

017 考え方の相違

山積みになっていた書類はお昼過ぎには片付いた。思ったよりもかなり早い。まあほぼそのまま流していったってのが早さの秘訣なんだろうけど。 本来ならもう少し目を通さなければいけないのだろうが、現在の偏った状況を変えるためにもいいだろうということに...
ラ・ペルラ

016.5 フィデールから見た二人

昨夜はシエンに付き合ってほぼ寝ていなかった。 シエン――ミオさんの前ではアスル・アズールと呼んだほうがいいのか。間違ってシエンと呼んだ日には、ミオさんから思い切りツッコミが入りそうで怖い。 気をつけなければ――そう思っているのに、なぜかミオ...
ラ・ペルラ

016 フィデール攻略-2

爽やかな笑みと、話の内容は必ずしも一致するものではない、と思う。 今まさに自分がそれだ。いつもより極上の笑みを浮かべている(はず)けど、内容は相手を脅すもの。「場合によっては黒い髪のかつら被ってスカート履いて、実は女でしたーって言って回るか...
ラ・ペルラ

015 フィデール攻略-1

のっけから、そう、のっけからというのが正しいと思う。 フィデールが何を言われるのか、内容によっては怒りたくなるような内容かもしれない――そう思っていた。 なのに、王から出てきた言葉は――「聖地に行って、《《本物の》》の“玉の乙女”を迎えに行...
リチェルカーレ

第8話 夜明け前

暗い室内の中は、ろうそくの小さな炎がいくつか揺らめいている。 もともと地界は薄暗い世界だが、今は夜明け前なのでこの小さな炎がなければ真の闇になるだろう。 けれど、部屋の主は二人とも眠らずにいた。「……詐欺だわ、貴方があの子だったなんて」 広...
ラ・ペルラ

014 対照的な二人

女だとバレないよう&アスル・アズール対策で、今日はいつもの服に上着を羽織っていた。 さらに気分的に眉尻を吊り上げて、いつもよりキリっとした表情をしてみて鏡でチェックする。 うん、大丈夫かな?「お待たせー」 確認してから食堂に戻ると、フィデー...
リチェルカーレ

第7話 あなたのそばに。

再び天界。 ここは光に近いというけれど、地面に草木もあり人界とほとんど変わらない。人界よりも淡い光に包まれたこの場所は、逆に温かくて居心地が良かった。 マリアベールはのんびりとお茶をして時間を過ごすのは、ここに来てからの日常になっていた。 ...
ラ・ペルラ

013 朝から迷惑

久しぶりに安心できたせいか、朝までぐっすり眠りこんだ。 おかげでこの館の主であるフィデールと、昨日やって来たアスル・アズールとどんな話をしたのかなんで全く想像していなかった。 どちらかというと、扉をドンドンと叩く音が聞こえるまで――正確には...
ラ・ペルラ

012 見えない鎖(フィデール)

百代目、ラ・ノーチェ国王は現在二十三歳の独身である。 彼に対して一番耳にする情報は、“変人”の一言に尽きる。 それもそうだろう。彼が王位を継いで二年と少し。その間、一度たりとも人の前に姿を現さない。現わさないというのは語弊がある。現わしても...
リチェルカーレ

第6話 三日目の夜

地界―― やっと三日間の婚礼が終わった、というのがクレアトールの感想だった。 華やかすぎてこの三日間は終始ドキドキしっぱなしだったし、来る人達に笑みを繰り返していたため、顔の筋肉が引きつりそうだった。 やっと思いでその宴が終了すると、今度は...
リチェルカーレ

第5話 心の階(きざはし)をのぼって

天界は光が頭上にあるため天候がなかった。 何もなければ明かりが降り注ぎ続けるこの天界は、時間になるとミカエルの力で光を遮る。それが人間界では夜にあたり、天界では薄暗い程度のものになる。 人間界と違う“夜”にマリアベールは驚いたが、慣れるのは...
薔薇庭園

第9話 ハッピーエンド?

うろたえる|秋月《しゅうげつ》は面白い。 でもそのせいで目的を見失っては元も子もなく、あたしはもう一度秋月に問いかけた。「あー……まあ、いつかは話すことなんだろうが……」 「だから今。はい即答。なんでも話すって言ったよね?」「……分かったよ...
薔薇庭園

第8話 ズルくても一石二鳥

盛大な腹いせ――あたしを吸血鬼にしたせいで、極上の血を味わえなくなったからという――とやらはもうすぐ終わるらしい。もう一度、二人の姿を映した時は傷は増えていたけど、周りにいる人たちはほとんど居なくなっていた。 それに加えて、トリィは吸血鬼に...
薔薇庭園

第7話 契約の中にある真実

心を落ち着かせるために、深く息を吸って今までのことを思い出してみた。 気づいたら、あたしってば秋月に何回も“嫌い”って言ってたっけ。 嫌いと言われることが、結構キツイもんだと改めて思った。同時に、あれだけ言っても気持ちが変わらない|秋月《し...
薔薇庭園

第6話 答えを求める問い

この部屋に来て数十分の間に起きた出来事に呆然とし、そしてため息をついた後、トリィが軽く肩を叩いた。「トリィ……」「とりあえず、窓を閉めて居間に行きましょう。二人ともしばらく戻ってこないわ」「あ……うん、そうだね」「それと……」 ここで少し口...
ラ・ペルラ

011 変人認定(フィデール)

信じたくない事実が真実になってしまった――と頭を抱えたくなった。 よりにもよって彼女が“玉の乙女”とは――もっと女らしい人なら良かったのに、というのが本音だ。「いや、あの……できれば『引っかかったな』とか言って欲しいんですけど。いつもの貴方...
薔薇庭園

第5話 苦労しても身にならないこともある

夕食が終ってお風呂に入って、やっと自分の部屋に戻った。 誕生日以降、|秋月《しゅうげつ》が何かとちょっかいかけてくるので、居間でトリィとウェンさんたちと一緒にいる方が安全だった。 だけど寝る時は自分の部屋に戻らなくちゃならない。以前トリィに...
薔薇庭園

第4話 徹底抗戦

あたし、|琴音《ことね》の十六歳の誕生日、そりゃもう大騒動だった。 養い親――|秋月《しゅうげつ》が吸血鬼だとその身をもって知らされて、そしてそのまま仲間にされて。 逃げだしたら同じ吸血鬼のトリィ――アーティストリィという女性に殺されそうに...
薔薇庭園

第3話 あたしの命はいつまで持つのか?

ああ、くらくらして地面が波打っているように見える。当たり前だ、目眩が酷い。なんでもいい掴まるものが欲しい。 倒れそうになったので、少しだけ歩いてブロック塀によろめきながら手をついた。 のろのろとカメのような速度だったため、明るいうちに出たは...
ラ・ペルラ

010 どうしても勝てない(フィデール)

雑事を片付け自室に戻ったのはかなり遅い時間になってしまった。扉を開けて明かりを灯すとふう、とひと息ついた。 それにしてもあの二人の組み合わせは心臓に悪い。最強の上、最凶コンビではないじゃないですかー! と悲鳴を上げて逃げたくなる。 いやいっ...
薔薇庭園

第2話 天変地異は何度来る?

昨日はあたし――|琴音《ことね》にすると天変地異に等しい出来事が四回も立て続けに起こった。 もう、すごい大ショック。今まで信じていたものが、一気にガラガラと音を立てて崩れていく感じ。 あ、天変地異が四回も起これば生きてるわけがないというツッ...