016.5 フィデールから見た二人

 昨夜はシエンに付き合ってほぼ寝ていなかった。
 シエン――ミオさんの前ではアスル・アズールと呼んだほうがいいのか。間違ってシエンと呼んだ日には、ミオさんから思い切りツッコミが入りそうで怖い。
 気をつけなければ――そう思っているのに、なぜかミオさんは今日になって私の仕事を手伝うと言う。
 出来ればここで大人しくしていて欲しい、というのが本音だった。

 

 ***

 

 王の前でミオさんが大人しかったのにホッとしつつ、けれど、内容が内容なので自室へと戻ると疲れが一気に出た。
 そんな自分にミオさんが気を遣ってお茶を淹れてくれる。こういう時は女性らしい気遣いが見える。
 ――と思ったのも束の間、信じられないほどの想像力を次から次へと披露してくれた。
 まさかシエンがラ・ノーチェ国王その人だと、次の日に気づかれるとは思っていなかった。
 もちろん彼女もその考えを全部信じていたわけではないようで、私の反応を見て意外そうな表情をした。
 本当に当たっていたのか――そんな顔。
 そして。

「もしかして――ラ・ノーチェ国王は紛れもない変人で、その変人さ加減から、女として規格外になるだろう私が面白そうだと思ったから――って感じ?」

 女の第六感とでも言うのだろうか、本当に彼女の直感はすごい。
 でも脱力しながら「……だから、何で分かるんですか」と質問すると、彼女はアイツが考えそうなことだ、と答える。
 確かに二人は思考回路が似ているというか……私に対しての悪戯(?)も同じようなことをするし。
 と、二人を比べていたのだけれど、ミオさんが女だと言って回るといって現実へと戻る。
 ……なんか、昨日はシエンに、今日はミオさんに振り回されてる。
 やはり二人は同じような思考の持ち主だ。
 とはいえ、ミオさんはミオさんなりにこの世界のことも考えているようで――還るというのが一番の前提らしいけれど――彼女の考えに賛同できる。
 それにシエンの言うとおりにするより、ミオさんの言うほうがラ・ノーチェ側に力を付けなくていいわけで――八割方、ミオさんのほうに傾いていた。

「まあ、それは私も雲を掴むようではっきりとしてないけど――とりあえず、私はアスル・アズール対策かな。あっちがどう動くか分からないから、出来ればこれ以上、私が女であることを認めさせたくないというか……」

 ん? なんかどこかで聞いたような台詞。

『ミオに自覚を――なんだが、それが一番大変そうなんだよなぁ。俺も今回ばかりはあまり自信がない。あの鈍感娘相手ではな。お前が来る前に少し話をそういう話をしたが、全く話にならん』

 ああ、そうか。シエンの昨夜の台詞に似ているのだ。
 二人とも似たような考えをしているのに、その似たような人物を相手にするのが一番厄介だという。
 これもまた変わった話だ、と思う。

 これから先、二人はどうなっていくのか。
 予言どおりなら二人は一緒になるはずなのに、お互い難解な相手だと思っている。
 少しは……そう、少しは楽しんでいいだろうか。
 二人の間に立って大変なめにあうだろうことは目に見えている。
 だから、二人の成り行きを少しばかり面白がって見物させてもらうくらい、許してもらうことにしよう。

 

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