NOVEL

薔薇庭園

第1話 人生、一寸先は闇。

人生、一寸先は闇――それが十六歳の誕生日にあたしが悟ったことだった。 あたしにとって一番古い記憶は、お腹を空かせてどこかの家の壁にもたれかかって座り込んでいるもの。 ああ、このまま死ぬんだ、って小さいながらに思った。だって、その時四日以上何...
ラ・ペルラ

009 郷に入りては郷に従え

唇は触れただけ。恋人とのキスのようにそれ以上深くなることはなかった。 すぐに離れてある程度の距離を取る。「ま、ここにいる間、口説こうと思うんでこういう意味でよろしくな」「ななななな……なにをするっ!?」「男でも女でも押し倒すほうが好きって言...
ラ・ペルラ

008 お熱い夜はお好き?

カチャカチャといくつか小瓶をあけて、少しずつ茶葉を取り出してポットに入れていく。これとこれとこれ。そしてきわめ付けがこれ、と。うん。こんなもんかな。 蒸らすのに時間がかかるので、沸いたお湯をフィデールの顔を見ないうちに入れた。言伝があるくら...
ラ・ペルラ

007 国王は変人である

真面目な顔でアスル・アズールが答える。 ラ・ノーチェ国王は“変人”だと。「そりゃまた……なんと言っていいか……」「まあ、|政《まつりごと》に関して問題はないんだがな。だから国民もある程度は目を瞑っているというか」「はあ」「変人というと変なも...
ラ・ペルラ

006 世の中いろんな縁がある

思い切り声を上げるのはとても気持ち良かった。数日振りで気分良く歌ったので、ストレス解消できた。 歌い終わった時は、周りからパチパチと拍手をもらった。 あ、やばい。歌った爽快感で我を忘れてたよ。目立ちたくなかったのに。「上手だな」 見ると笛を...
ラ・ペルラ

005 元の生活より優雅なのだ

異世界に来て数日。 生活は悪くない。大国の王宮ってことで、食べ物はいいし、寝る部屋もふかふかのお布団がある。 フィデールが住んでる離宮から出なければ、余り人と会うこともなく、詮索されることもない。 それにフィデールは最高祭司だけあって、離宮...
ラ・ペルラ

004 とりあえず事情を聞く

人というものは、先に騒がれると後から騒ぐことって出来ないと思う。機先を削がれるというか、ね。パニックになっている相手を見てると、だんだん冷静になってくるみたい。 ということで、フィデールのおかげで異世界に来ちゃったってのに意外と冷静な私。 ...
ラ・ペルラ

003 どうやら間違えられたらしい

ひょんなことから異世界に来てしまった私。でもどうやら帰れるようで、一安心。 そうなると今度はそれまでの間、ここで生活できるように情報収集しないとね。「そうですね。まず、この世界のことからお話しましょう。あ、お茶でも入れましょうか?」「あ、頂...
ラ・ペルラ

002 気づくと異世界だった

一人で騒いでいる男に、私は軽くぺしんと叩く。「うるさいっ」 いい加減現実に戻ってくれ。でないと話が全然見えないんだ。それに早く戻ってバイトに行かなければ、私の夕飯のおかずが一品どころか二品、三品と少なってしまう。万年欠食児童の私には死活問題...
ラ・ペルラ

001 叩かれて階段落ちた

「うわー! 間に合わない!!」  女にしては長身の体で細い歩行者用の道を一生懸命走る。 早くしないと電車に乗り遅れるっ! この辺は少々田舎なので、電車は十分に一本の割合。先に言っておくけど、十分後だとバイトに遅れてしまう可能性が高いのだ。 ...
リチェルカーレ

第4話 心が伴わない豪華な婚礼

姉であるクレアトールは、妹のマリアベールに少し遅れて地界へと向った。 強すぎる薬のおかげで、クレアトールはまだ少しふらついたが、それでも体調の悪さを表に出すことはしなかった。それも何もかも使者から聞いた話のせいだ。 夫となる“ルシファー”。...
リチェルカーレ

第3話 霞んだ世界で待つ人

マリアベールは自分の意志を無視されたまま、天界へと嫁ぐことになった。 姉であるクレアトールとも地界の使者から受け取った小瓶を飲み干した後、そのまま気を失ってしまい、話も出来ないままで。 使者の話では、薬は闇に対する抵抗力を高めるものだという...
リチェルカーレ

第2話 突きつけられた選択肢

今年は人界において二十年に一度の大祭だった。 大祭とは、天界の“ミカエル”、地界の“ルシファー”は二十年をもってその任にあたる者が代わる節目の年でもある。 そのため、大祭は天界、地界において新しき支配者の初の顔見せになる。現在のミカエルとル...
リチェルカーレ

第1話 一日でも長く笑えるように

この世界は五層に分かれているという。 一番上から光、そして天界、人界、地界、闇の順で、それらを繋ぐための柱が中心にある。その柱は限られた者だけが別の世界を往来できるようになっていた。 人界は人が占める世界。いくつかの国に分かれて生活をしてい...