第3話 あたしの命はいつまで持つのか?

 ああ、くらくらして地面が波打っているように見える。当たり前だ、目眩が酷い。なんでもいい掴まるものが欲しい。
 倒れそうになったので、少しだけ歩いてブロック塀によろめきながら手をついた。
 のろのろとカメのような速度だったため、明るいうちに出たはずなのに、すでに辺りは暗くなっている。それのに、まだ一番近い町までしか辿り着いてない。
 それでも町の中心に行けば電車の駅があるはずだから、そこまで行けば一気に遠くへ行けるはずだ。予定で行けば――だけど。目的地に着くより先に、体のほうに限界が来そう。

「はあ……なんか昨日からものすごく運勢悪い気がする……。十六歳って厄年だったっけぇ?」

 本当に今年は厄年なのか大殺界なのか。死ぬわけじゃないから死期じゃないんだろうけど、でもそれを上回るような怖いものがあったし。
 ああ、ぐるぐるして考えることもまともに出来ない。考えなければならないことが沢山あるのに、胸ぐら掴んで問い質したい人物は、絶対のらりくらりと躱して答えないような気がする。
 突然現れた仲間らしいウェンも同じく、だ。あの二人から欲しい答えが得られない可能性は高い。
 となると……逃げるが勝ち、だ。
 あの二人の傍にいたら精神崩壊に繋がりかねない。考えるだけでも恐ろしい。とにかく少しでもあそこから離れなければ。その後の生活を考えるのは後回しにして……。

 ……え?
 不意に周囲が暗くなる。
 夜だから暗いのは当たり前だけど、それでも街灯の明かりのおかげでちゃんと見えてたんだけど。急に一番近くの灯が遮られたみたい。
 なんだろう、と振り向こうとした瞬間、喉元に冷たいものが触れた。それは人の手に見えるのに、人にはありえない冷たさで――怖くて悲鳴を上げようとした瞬間。

「静かにしてね。悲鳴上げたら、わたくし驚いてあなたの喉を掻き切ってしまうわ」
「……っぅ」

 冷たい指の先にある鋭いものが、あたしの喉に食い込むというか刺さるというか。鋭利な刃物で切った時の痛みと、生暖かいものが流れる感触がして、ぞくり、と背筋に寒気が走った。

「ひ、悲鳴はあげないけど……でも、誰と聞くくらいはいいですよね?」

 十中八九、後ろの人物は秋月しゅうげつ絡みだ。というかそれ以外で変な人に絡まれる理由なんて見つからない。
 でも誰かも分からないので一応尋ねてみる。レッツチャレンジ。
 ……まあ、答えてくれるとは限らないけど。

「あの……」
「アーティストリィ」
「は?」

 簡潔極まる短い答え。
 ええと、これってあたしと会話をする気は全くなしってことでいいのかな。コミュニケーションを取ろうって気はない……よね、どうみても。
 なんか、あたしを殺したいみたいだし。

「“アーティストリィ”だって言っているでしょ。ずいぶん頭が悪いわね」
「……いきなり殺そうとした人に言われたくないんだけど」

 抑えているけど今にも殺してやりたい――そんな感じがひしひしと伝わってくる。
 でもそこまで殺気を持たれるような人に心当たりは全くない。だから名乗られても全然分からないよ。

「殺してないわよ?」
「殺されてたらこんな風に話できないよ。それに近づくまでまったく気づかなかったのに、今ではそれを隠そうともしていない。いつでもあたしを殺せるっていうプレッシャー、思いっきり感じるけど?」

 白々しい嘘はつかないでほしい。それでなくても、いつもいつもいつも秋月にのらりくらりと躱されている身なので、そういったのって雰囲気で分かる。
 ……って、偉そうに言えるようなことじゃないんだけど。
 それにこういう雰囲気ってすごく嫌。自分が殺されそうだからじゃない。なんだろう、とにかくすごく嫌だ。

「はっきり聞くけど秋月関係の人だよね? でも、あなたはあたしを連れ戻しに来たんじゃない。あたしを殺したい――そうじゃないの?」
「偉そうに聞くんじゃないわよ。あなたの命はわたくしが握っているのよ?」

 後ろから耳元でくすっという小さな笑い声。なんか獲物をなぶる肉食獣のようなイメージだ。
 確かに今のあたしの生殺与奪権は彼女にある。それでも屈するのは嫌だと思う。喉に食い込む鋭いものを感じながら、それでも声を上げずに堪えた。

「好き……にすれば? あなたはあたしが仲間になるのが気に入らないんでしょ? でもそれはあたしが望んだことじゃないもの」

 あたしはあたしなりに人生設計を考えていた。養われている身で、中学だけでなく、高校まで行けたのは嬉しかった。だから大学までは望まないものの、きちんとした成績で卒業し、それなりの収入があればどこでも働こうと思っていた。
 今のままのあたしには秋月に何も返すことができない。だからあそこにいる間は恩返しに秋月の出した条件はちゃんと守ろうと思った。
 でも、ずっとあそこに居るっていう選択肢は考えてなかったんだ。
 面白いことに過去に考えた人生設計を振り返ると、大人になったあたしはあの家にいない。たぶん秋月の気まぐれを考慮していたんだろう。いつまで傍にいられるか分からないから、きっと無意識に考えないようにしていた。
 いや違う。一緒にいると疲れるから考えなかったのかな?

 どちらにしろ秋月が人間だというのが前提だから、こんなのは予想外もいいところだ。そう思って小さく笑う。
 するとアーティストリィと名乗った人はそれに対して頭にきたのか、いきなりヒステリックな声をあげた。

「黙りなさい! あの人に選ばれた光栄など分からないくせに!」
「分かるわけないよ! 何にも説明してもらってないもの!」

 まさに売り言葉に買い言葉。でも一方的に文句言われて我慢できるほど人間できてない。
 それに。

「あたしには選ぶどころか、話を聞くことも出来なかったんだから!」

 喉に突きつけられたものは痛かったけど、怒りに任せて振り向いて叫んだ。そのせいで、深くはないけど傷が横に走り痛みが広がる。
 涙目になって背後を見れば、そこには『赤い』と形容していいほど綺麗な赤い色をした髪と、そしてそれよりも濃い赤い瞳。睨んでいるためか目が少しきつい印象。でも顔はもちろん整っている。
 こういう顔を立て続けに見ると、世の中不公平だなって思っちゃう。目の前の人といい、秋月もウェンさんも顔だけで食べていけそうだ。
 こういう人達に非美形っていないのかな? 顔基準で選んでいるとしたら選ばれるわけないんだけど。造りが悪いって嘆くような顔じゃないけど、美形と称されるほどいい訳じゃない。
 ……って、状況を忘れて相手の顔を見てしまった。
 今、問題なのは彼女の顔じゃない。この状況を何とかしなければならないほうが最優先だった。
 慌てて彼女を見直せば、何も言わないあたしに対して余計苛立ったのか、さっきよりも視線がきつくなってる。

「当たり前でしょう。ただのエサが偉そうな口をきかないでほしいわ」
「え、えさぁ!?」
「そうよ、わたくし達にとってあなたたち人間なんてエサ以外何ものでもないのだから」

 ムカっ、なんかこめかみに血管が浮き出てそうだ。この人、初対面なのにケンカ売りまくりじゃないかっ。
 でも態度があからさまで、立場とか考えとか、あたしにも分かっちゃうんだけど。
 余計怒りそうだけど、言われっぱなしは性に合わないから言ってしまおう。このまま誰も来なければ、どうせいつかこの人に殺される。言いたいことも言ないまま死ぬなんて、嫌だ。

「ふふふ……じゃあ、そのエサに負けたあなたはどうなんでしょうねぇ?」
「なんですって!?」
「状況考えればだいたい分かるよ。あなたが秋月の仲間で、でもって秋月のことが好きなんでしょ? でも選ばれなかったら、あたしに八つ当たりってところ?」

 キツイこと言ってるってのは十分承知してる。
 でもあたしのほうも限界に近いんだ。まだ目眩が酷い。なんとか立っていられるのだって頭に血が上っているからだ。
 怒らせたその先を考えていられるほどの余裕なんてない。というか、そうでもしなきゃ、失神してそのまま死んでいそうで怖い。
 だから、目の前の人を睨みつけながら、次の言葉を探した。

「じゃあ、他に何があるの? 仲間にした秋月が居ないのに殺そうとするのは、あなたの独断でしょう? それって、秋月が居ない間に始末したいってこと――」
「――お黙りなさい!」

 話している途中で遮られた声と共に振り上げられた右腕。その手の先を見れば刃物などは持っていない。その代わりに爪が異様に伸びていて赤黒いものが付着していた。
 成る程、あれをあたしの喉に突きつけていたんだ。あれ切れ味良さそうで受けたらすごく痛そう。
 そんなことを他人事のように思っていると、彼女の背後からその手を掴む人がいた。

「その辺にしておくんだ」
「ウェン!?」

 家で見たときよりも真面目な表情で、ウェンさんはアーティストリィの手首を掴んでいる。
 でもウェンさんがここに居るってことは――

「このバカたれっ!! そんな体で出歩くんじゃない!」

「し、しゅうげ……うぎゃあっ!?」

 すぐ近くにいると感じた瞬間、ぐいっと引っ張られて情けなく秋月の体にぶつかる。
 そして、そのまま持ち上げられてお持ち帰り状態。しかも、いわゆるお姫さま抱っこ。
 一番嫌な体勢じゃないか。くう、不意打ちとはいえ、いきなりこの体勢にされるとは……。

「ちょっ、放してってば!」
「だーめ。逃げ出した罰として、家までお姫さま抱っこで連れて帰ってあげよう」
「やっ、それはやだーっ!」
琴音ことねが嫌がりそうだから罰なんだろうが」

 これが選ばれた?
 冗談じゃない、遊ばれているの間違いじゃないか。なんだって彼女はこんな奴がいいのよ? 彼女の好みが全然分からないーっ!!
 ……と現実逃避しているうちにがっちり掴まれたまま移動する羽目に。夜で人がほぼ居ないのがせめてもの救いかも。
 すでに抵抗する気もなく、数時間かけて辿り着いた道のりを、ほんの数分で逆戻りすることになった。

 

  ***

 

 部屋に戻りソファに座ると、秋月が温かいミルクティーが入ったマグカップを差し出す。料理全般はほとんどしないのに珍しい。それだけ心配してくれたのかな。
 貧血と体が冷えているので素直にそれを受け取った。
 体に合わせてくれてあるのか、少し温めのミルクティーは飲みやすくて、一口確認した後はごくごくと一気に飲み干す。

「ふー……あったまるー」
「あったまるー、じゃない。少しは自分の体を考えろ! 今は変化してる時でほとんど体力がないんだぞ!」
「そんなこと知らないもん」

 一方的に言われてムカついたので、視線をそらして耳を塞ぐ真似をする。

「知らないもん、じゃない! なるべく体に負担がかからないようには気をつけたが、それでも命を落とす可能性だってあるんだ!」
「だから知らないってば! 勝手にやったくせに!」

 珍しく真剣な表情をしているけど、一方的に怒られて大人しくスミマセンと言えるわけがない。
 というか、もう少し説明してよ! 必要最低限といえる説明さえもないんだもの。

「ちょっと……それって、この子になんの説明もしないで仲間にしたってこと!? それじゃ違反行為じゃないの! 秋月、あなた何を考えてるの!?」

 今まで黙って立っていたアーティストリィが騒ぎ出す。ウェンさんは多少事情を知っているのか苦笑するばかりだ。
 でもこの際、彼女に思い切り突っ込んでほしい。思わずうんうんと頭を上下させる。

「説明って言うけど、こいつが三歳の時にすでに契約してることだし」
「はあっ!? そんなの知らないってば!」

 今度はこっちが騒ぎ出すほう。
 三歳ってなに? ここに来たのと同じくらいだけど、そんな話あったっけ? というかフツー覚えてないでしょ、三歳の時のことなんて。
 おかげで頭の中は疑問だらけだ。

「ここに連れてくるときちゃんと話したぞ。ちゃんと『うん』って言ったし」
「だから知らないってば! ってか、三歳の子どもが『うん』って返事したのを真に受けるな!! だいたいアンタその時いくつなの? 三歳の子になんつーこと約束させるわけ!?」

 秋月は出会った時から変わらない。秋月は一体いつから存在しているのか。
 そう考えると、生きた化石……まではさすがにいかないか、どちらにしろかなり年寄りってこと?
 そう思うと、おじいちゃんな秋月を想像して、ついポロッとこぼしてしまう。

「あれ……秋月って、人間ならしわしわのおじいちゃん……いや、もしかしてミイラになるくらい生きて……る?」
「おい……もう少し言いようってものがないのかよ? というか、お前も論点ズレ始めてるぞ」
「うっさい。こっちだって頭ん中ぐちゃぐちゃなんだからしょうがないでしょ! それに突っ込めるところ突っ込んでおかないと、あとじゃ突っ込めないじゃないか」

 話の本題からズレようと、秋月にツッコミを入れられそうなところは入れておかなければ。大人しくしているとどんどん向こうのペースになってしまう。
 ギロリと睨むと、秋月のほうが折れた。はーっとため息をついたのを見て、こっそり『やった』などと思ってしまう。

「さてと、ちょっとだけすっきりしたから本題に戻って……ちゃんと説明して頂戴」

 ニヤリと笑みを浮かべつつ尋ねると、またもやため息。

「お前さ、こうなったのも、お前のそういう性格のせいだってのが、なんで分からないわけ?」
「は?」
「お前の言われたら言い返すっていう性格が飽きないから、こうなったんだよ」
「どういう意味よ?」

 勝手に人のせいにすんな、という怒りと同時に、やれやれ、などという態度にさらにヒートアップする。
 秋月の後ろに立っていたウェンさんが仕方ない、と口を開いた。

 ウェンさんの説明によると、彼らが関わる事件で両親を亡くしたあたしをどうするかということになり、何故かあたしのことを気に入った秋月が面倒をみることになったらしい。
 本当に「なんで気に入るわけ!?」と言いたいんだけど、とりあえずそれは置いておいて、他の人はいつもの気まぐれだと思っていたらしい。飽きたらそのうち捨てるだろう、と。
 とっても失礼な話だけど、なんとなく納得してしまうのが怖い。
 一応、当時のあたしにも小難しい言葉を使ってさんざん説明した後、最後になって「一緒においで」という言葉でトドメを刺したらしい。難しい言葉なんて分からないし、行き先のないあたしはその手を取るしかないじゃない。

 話を聞いていて分かったけど、どうも秋月は結構いい立場にいるようだ。そのせいで、秋月の気まぐれを止められなかったらしい。
 そのための譲歩案が、あたしが十六歳になるまで様子見ということに落ち着いたようだ。
 本人抜きにして決めてるのが無性に腹立つんだけど、結果は秋月が飽きなかったから仲間に入れる、ということになったらしい。
 打てば響く反応が飽きさせなかったとか。なんかそうなると自分の性格が恨めしい気になるけど、こうなったのも秋月があたしを散々からかった結果故だ。
 鶏が先か卵が先か……微妙なところといった感じで何ともいえない気持ちになる。

「だからって、なんの説明もなくあんなことされれば、普通は逃げるでしょうが!?」
「そうか? でもお前なら十字架やらニンニクやら聖水やら……あれこれ用意して、もの凄い形相で帰ってきそうな気もするけどな」
「う……」

 それは考えなかったわけじゃないけど……これ以上関わりたくないってほうが今回は強かったかな。
 それに。

「だいたい、そんな約束、三歳の子が覚えてるわけないでしょうが。ならここは一つ、口説いてみようとか、それらしいことをしてみようとか思わないわけ!?」
「してたじゃないか。少し前から」
「あれは“口説く”って言わない! あれは“セクハラ”って言うの!」

 いい体になったとか、お尻撫でたりとか、どう見てもあれはセクハラとしか思えないでしょうが!
 ああ、もう……、なんか話がかみ合わない。

「本人にその気がないんじゃ、その約束は無効じゃないの? だいたいそんな話、わたくしでも詐欺だと思うわ」

 今まで黙っていたアーティストリィが否定してくれる。おかげで、ついつい心の中で彼女に向けて拍手してお礼を言う。
 ナイスツッコミ! ありがとう、あたしあなたを誤解してたみたい!
 ソファーに手を置いて秋月に抗議する彼女を見て、あたしは心の中でグッと親指を立てた。

「そう言うけど、すでに“契約”はなされてる。今さら無効にはできないぞ」
「……っ、でも説明もなしに仲間に加えるなんて、そんな危険なこと……それでなくても、わたくしたちはっ!」
「その点は大丈夫。コイツが怒って向かってきたとしても矛先は俺だけ。他の奴らに、とばっちりは行くことはないさ」

 そう言ってあたしの頭を軽く叩く秋月。
 あー……全部お見通しかい、あたしの性格。小さい頃から、ずーっと見てたんだもんね。丸わかりだよね。確かに恨んだとしても秋月だけだよ。ウェンさんもアーティストリィも悪くないし恨む気もない。
 でも、話の内容から人に戻る可能性もないってことが分かった。
 となると、残りはどうすればヤツの毒牙にかからないかというのが問題かな? 秋月のことを嫌いだとは思わないけど、オモチャにされるような感覚があって、全力で拒否したい気持ちのほうが強い。
 でもずっとってのは、きっと無理なんだろうな。秋月が逃がす訳ないだろうし、あたし自身も逃げ切れる自信なんてない。
 結局、あたしはこの家で秋月と過ごすことになるのかな。まるきり考えていなかった将来を目の前に突き付けられて、深い深いため息をついた。

「琴音?」
「寝る。疲れたから部屋に戻って寝る」
「そう、か」

 文句を言われると思っていたのか、少し拍子抜けした秋月の顔。
 ウェンさんもアーティストリィも同じ。

 で・も、納得したわけじゃない!

「言っておくけど、さっきの話に納得したから部屋に戻るんじゃないの! 納得しなくても逃げられそうにないから現実逃避に部屋に戻るだけ! ちなみにそんな話は断固拒否! 徹底抗戦するからね!!」

 ソファーから立ちあがり、びしぃっと人差し指を秋月に向ける。
 一瞬きょとんとするが、すぐに笑い出した。

「ははっ、さすが琴音」

「うっさい。あんたなんかだああああああああぁいキライッ!」

 思いっきり叫んだ後は部屋から飛び出した。
 扉を閉める時、秋月の大笑いが聞こえたけど、そんなのは無視。だってこれから体力回復をはかってヤツとやり合わなければならないんだから。
 笑っているのは今のうちだけだ。そう簡単に手なんて出させてやらないんだから。あたしを選んだこと後悔させてやる。思いっきり思いっきり拒んでやるんだ!
 鼻息荒く部屋に戻ると疲れたのでそのままベッドに転がった。
 かなり不本意だけど、アブナイのは体が本調子に戻ってからだし、ああやって宣戦布告すれば今日は笑い転げているに違いない。
 そう思うと、あたしは安心して眠ることができた。

 そして次の日からヤツとの戦いが始まる。
 激しい攻防戦の末、力尽きたのは三ヶ月先のこと。
 もちろん、その攻防戦がヤツをより喜ばせるだけだと気付いた時は、すでに追い詰められた後だったという、マヌケなオチがついていたのは言うまでもなかった。

 

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