NOVEL

baby's-breath

第05話 夜明け前(1)

深夜、ベルディータは熟睡している優花の髪を撫でていた。 彼女の髪は自分のこしのあるストレートな髪と違い、細くて柔らかい。指に絡ませると少し癖があるためそのまま絡みつく。撫でた感触は柔らかくて気持ちいい。 何度撫でても起きない優花は、ベルディ...
baby's-breath

第04話 長い夜(11)

時には諦めるということは大事だ。 特に優花のように際立った能力を持たないものなら、尚更そういうことが多い。 今回もそのうちの一つなのだ。 だから我慢するしかない。もう一度、優花は心のなかで自分に言い聞かせる。 我慢、我慢、我慢、我慢、がまん...
baby's-breath

第04話 長い夜(10)

まだ優花が小さな頃のこと。 幼馴染の慎一が、上級生の一方的な言い分に我慢できなくて、口げんかになったことがあった。しまいには手が出るようになり、慎一が殴られるのを見て思わず間に入ったことがある。 その時優花は慎一の代わりに殴られて、すごく痛...
baby's-breath

第04話 長い夜(9)

バクバクとうるさい自分の心臓の音を聞きながら、優花は瞑っていた目を開けてベルディータをそっと見た。 青い瞳からは底知れぬ深さを感じて、彼の心を量りかねた。 なぜ、今ここでこんなことをするのだろう?「どうしても……」「え?」「どうしても行くつ...
baby's-breath

第04話 長い夜(8)

ここに来る前に見た光景を思い出しながら、優花はベルディータに自信満々な表情を向ける。「この世界って、わたしがいた世界――地球よりだいぶ小さいみたいだし。時間はかかるけど、地道にいけばなんとかなると思うんだよねー。完全には無理だろうけど、魔物...
baby's-breath

第04話 長い夜(7)

優花はベルディータから離れると、魔物のいる方向へと一人で向かう。動くと冷たい空気に、薄い夜着しか纏っていない優花は軽く身震いした。 外は寒かった。聖水鏡宮では何かの力が働いているのか、いつも快適な温度だったが、通常は寒かったり暑かったりする...
baby's-breath

第04話 長い夜(6)

一体この部屋に来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか――優花は現実逃避に、ふとそんなことを考える。 窓のないこの部屋は、入ってからずっと蝋燭の明かりのみのため、今何時なのかまったく分からない。 それにベルディータの口から語られる隠された...
baby's-breath

第04話 長い夜(5)

戸惑っていた表情は次第にしっかりとした意思を持ち、ベルディータを見つめる。 知りたいという気持ちから、優花は積極的になっていた。「違う。年齢でいえばヴァレンティーネが一番若い。といっても、私とほとんど大差ないがな」「え? そうなの?」「ああ...
baby's-breath

第04話 長い夜(4)

「そして、人々からは神と崇められてきた一族の名でもある」 やっぱり、と思う。この辺は優花の推測どおりだった。 けれど、今のイクシオン一族は二人しかいない。ベルディータとファーディナンドのみ。「どうしてその一族が、今は二人しかいなくなったの?...
baby's-breath

第04話 長い夜(3)

「さんざん愚痴言ってごめんなさい。ベルさんが嫌じゃなかったら、わたしに力をください」 他に方法はない。帰る手立ても、力のないままこの宮で生きていくのも辛い。 それに魔物を殺すのも嫌だ。それなら力をもらって、少しでも人の役に立ったほうが少しは...
baby's-breath

第04話 長い夜(2)

『私の力はユウカに受け取って欲しいと思う』 優しく手を取り、静かに告げる言葉は、とても魅力的に見える。 けれど、優花には、それよりも力を得ることに対する抵抗力のほうが強かった。いつの間にかこくんと喉が鳴る。 力を得ればここに居るのに罪悪感を...
baby's-breath

第04話 長い夜(1)

扉を開くと中は薄暗かった。 小さな明かりがいくつか灯っているが、天井などは闇に包まれている。どこから天井で、どこまで壁なのか分からない。 優花がドキドキしながら辺りを見回していると、ギィ……と入ってきた扉が閉じられた。 慌てて扉引いてみるが...
ラ・ペルラ

034 自覚

「おい、もう茶はないのか?」 フィデールの言葉にぼけっとしてると、カップと器を持ってる私に、アスル・アズールが覗き込むようにして尋ねた。「…………ないよ」 まったく、後から来てあるわけないでしょうが。 あーもう、こいつがいると心がやさぐれて...
baby's-breath

第03話 出会い(6)

道すがら、優花は優花なりに考えていた。 魔物といえど生き物を殺したくはない。でもそのことを黙って宮にいた場合、人の懇願する感情に対面していかなければならない。 ならどうすればいいのか。「あ、ベルさんの言っていた『精霊術』ってのを覚えれ、ば少...
baby's-breath

第03話 出会い(5)

「そんなに帰りたくないのか?」「帰りたくない」「帰りたくないのなら……仕方ないが――」「いいの!?」 ベルディータの言葉にガバっと抱きつくようにして問う。 その勢いにベルディータが軽く後退るのがわかったが、見逃してもらいたいという気持ちのほ...
baby's-breath

第03話 出会い(4)

「元の世界に戻れないのも分かってるけど、普通の生活できるなら文句言わないから、早く次の神様見つけて欲しいんだよね」 優花にしてみると、ファーディナンドに少しでも早く優花より相応しい人を見つけてもらわなければ困る。「そうは言うが……前の神が選...
baby's-breath

第03話 出会い(3)

吐き出すものを吐き出したら気が楽になった。 しばらくしてから、優花は手で涙をぬぐってベルディータから離れた。「ありがとう。ベル……ティーダさんって優しい人だね」「……私の名前はベルディータと言っただろうが」「あれ、そうだっけ?」 どうやらテ...
baby's-breath

第03話 出会い(2)

優花は念のため静かに起き上がってみた。 体を動かしても痛みは感じないし、よく見れば破れた服はともかく、出血までしていた腕が綺麗に元に戻っているのを見て素直に驚く。「すごい……ホントに治っちゃってる……」「他に痛むところはあるか?」「んーまだ...
baby's-breath

第03話 出会い(1)

あれからどれくらい時間が経ったのかわからなかった。 右肩がジンジンと痛む。出血もしているようで、嫌な鉄の匂いが優花の鼻にも届く。血の匂いに誘われて肉食獣が来たらと思うとまた恐怖に襲われ、なんとか起き上がろうとする。けれど、そのたびに右肩にも...
baby's-breath

第02話 異世界キト(4)

エラトたちを帰すと、先程の神官が心配そうに優花に尋ねる。「あれでよろしかったんでしょうか?」「分からないけど……でも嬉しくないのに『おめでとう』って言われても嬉しいと思う?」「それは……。でも、神官長様にはどう言えば……」 神官長という単語...
baby's-breath

第02話 異世界キト(3)

優花は体をゆさゆさと揺さぶられて、少しずつ意識が覚醒する。「んん、なに……?」「起きてください、ユウカ様」「もー少し……」「早くしないと神官長様がお見えになります」 パチ。「それ早く言ってええええ!!」 ガバッという効果音が似合うかのように...
baby's-breath

第02話 異世界キト(2)

ファーディナンドに急かされるようにして部屋を出ると、白い服を着た人たちが大勢跪いていて、優花は驚き一歩後ずさった。 確か宮といったか、神が住まう場所ならば、それに仕える人も多いだろう。でもこういったのを見慣れていない優花には、十分逃げたい要...
baby's-breath

第02話 異世界キト(1)

白い空間をしばらく漂った後、ふと背中に何かを感じて、優花はそっと目を開けた。 手を動かすと硬くて冷たいものにあたる。なんだろうと数回撫でてみると、それは大理石のように磨かれた石の床だと気付いた。(なに? ってか、ここどこ?) 横たわっていた...
baby's-breath

第01話 呼ぶ声(4)

赤くなった慎一を涼子とまどかの二人でからかっている。 涼子とまどか二人を相手に何か返すから、次から次へとやりとりを続けることになるのだ。だからある程度のところで切り上げたほうが延々続かなくて済む。 優花にとっていつものことといえばいつものこ...