Step 3 「食と男女の関係」

 久しぶりに来た遊園地には、新たなジェットコースターが追加されていた。他にもいくつか新しくなっていて、前に来たときと違い、新鮮さに溢れていた。
 ガウリイは絶叫系に乗ってすっきりしたいと言っただけあって、そういうものばかりを選んで乗ることになった。あたしも絶叫系は嫌いじゃないから、ストレス発散のために一緒になって二人で叫んだ。

「あー面白かった」
「ああ、でも喉渇いたな。ちょっと休もう」
「オッケー」

 軽食を売っているところに行き、コーラを二つとフライドポテトを頼んだ。すぐに用意されて、あたしたちはそれを受け取ると、空いている椅子に座った。
 ストローに口をつけて吸うと、冷たいコーラが喉を通り過ぎる。

「ぷはー、おいしー」
「騒いだからなあ」
「うん。おかげでストレス発散できたわ」

 ポテトに手を伸ばして、ぱくっと口に放り込む。塩加減がちょうどいい。
 ガウリイもパクパクと食べて、あっという間にポテトは終わってしまい、最後にコーラの一気飲みをした。こういう姿を見ると、ガウリイって大学生くらいかな? って思うくらい若く見える。
 スーツを着ている時は社会人だってことが分かるんだけど。そう思うと、改めて大人なんだなと思い、その瞬間、車での出来事がフラッシュバックした。
 そのせいで、こめかみに怒りのマークが復活する。

「それにしてもさぁ、やっぱりはやめたほうがいいと思うのよね」
「アレ?」
「大人扱いって言うの。ガウリイってば、大人だったらみんあそういう対象なわけ? 誰でも彼でも」
「ぶはーっ!! ゲホッゲホッ! ……あ、あれはだなっリナがやたら緊張しているから……」

 ガウリイは飲んでいたコーラを吹き出して、咽ながらなにやら言い訳をしている。
 しかし、ほんとーにリアクションの大きいにーちゃんである。

「どーゆー意味よ?」
「だからさ、リナすごく緊張していたから。最初にドキっとしちゃえば免疫ついて、後はそんなに緊張しないだろうと思って……」
「ふーん。あれってあたしが緊張しているから、緊張を解すためにやった――そう言いたいのね?」
「……そうだよ」
「あそ」

 ガウリイにその気がないのが分かってホッとした分、なんとなく女扱いされてなくてムカムカとした気分になった。コーラが入っていた紙コップをぐしゃりと握りつぶす。

「もしかして女扱いされなくてムカついたのか?」
「あーら、そんなことあるわけないじゃない。六つも年上のおじさんに」
「おじさん……」

 あたしは表面上は笑みを浮かべて、心の中ではガウリイの財布を日干しにするくらい食べてやる、と悪魔の笑みを浮かべた。
 この遊園地にはそこそこおいしいバイキングがあって、それでいいと思っていたけれど、こうなったらガウリイには高いと評判のイタリア料理の店に連れてってやる。

「ねえねえ、あたし喉だけじゃなくてお腹空いたなぁ」
「そんな時間か?」
「ちょっと早いけど、時間になると混むし……三時のおやつだって食べたいし♪」
「あー、そうだなぁ。じゃあ行こうか」
「行こう行こう。あたし行きたい店があったんだ」

 勢いよく立ち上がってガウリイの手を引っ張る。ガウリイはつられて立ち上がった。
 でも、立ち上がっても手はそのまま繋がれていて……なんとなく恥ずかしくて、あたしは慌てて手を引っ込めた。あたしよりずっと大きい手――ガウリイって、やっぱり男の人なんだなぁ。

 イタリア料理の店、ブルーノは十二時前だというのにもう客が待っている状態だった。入口に行くと、店員が名前を聞いてからメニューを渡してくれて、少しお待ちくださいと言われた。
 ガウリイと一緒にメニューを見ながら、あれも食べたいこれも食べたいと目を輝かせて言った。ガウリイにはよく食べると言っていたけど、普通の人の数倍あったため、「おいおい大丈夫か?」と心配された。
 席が空くと店員に促されて中に入る。先ほど見ていたメニューを指差して、食べたいものをいくつか読み上げていく。ガウリイと店員の顔色が悪くなったけど気にしない。
 とはいえ、ガウリイも負けじと注文をしたけど。

「本当にあれだけ食べられるのか? ショーウィンドウのピザ、かなりでかかったぞ」
「大丈夫大丈夫。残したりしないから安心して」
「でもなあ」
「言ったでしょ。よく食べるって」
「オレ並みだっけ?」
「そうよ。ガウリイ並みに食べるわよ。だから親近感を持ったって言ってるじゃない」
「なるほど」

 ガウリイは食べられるのかどうかを心配しているだけで、たくさん食べてお金を使うことをあまり気にしているようじゃなかった。
 注文時に持ってきた水に口をつけながら、ガウリイを見る。この男は懐が深いのか浅いのか測りかねる。同級生の友だちとかだと、こんなに奢ってなんてくれない。というか、基本自腹だし。

「それよりもさ。こんなに頼んで大丈夫だった?」
「別に大丈夫だよ。今日は使うぞって思って来たしな」
「よかった。じゃあ、じゃんじゃん食べられるわね♪」
「まだ食う気かよ」

 少しげんなりした顔をしたガウリイ。
 そんなガウリイに気づかないフリをして、どこまでしてくれるのか試してみたくなる。

「これが終わったらデザート食べて~三時にはおやつは欠かせないわよね。で、帰りは早いけど夕飯かな。この辺、美味しいお店いっぱいあるし」
「……あれだけ頼んでて、まだ食べる話ができるのか……」

 今度はあからさまに嫌そうな顔になったガウリイに、ふふんざまあみろ、と心の中で舌を出した。
 しばらくするとまずはパスタが届いて、そのあとにピザが来た。ピザは置く場所がないという感じだったけど、先に来たパスタをさっさと片付けて、空いている場所を作った。店員さんが少し引き攣った顔をしていたけど気にしない。
 でも、同じように食べる人が一緒にいると、あまり人目を気にしなくてもいいと思う。まあ、二人とも凄い食欲だから、いつもより人目は引くんだけどね。

 結局、あたしたちはパスタを五種類、ピザを三種類、でもってサラダに牛肉の香草焼きを二人で完食した後、デザートにジェラードを二種類食べた。どれも高いだけあって、普通のお店より満足できる味だった。
 レジでガウリイが約束どおり全部支払ってくれて、奢ってもらうくすぐったさを感じる。世の中の男女の関係って、皆こんな風なんだろうか。だとしたら、こういうのに慣れる日が来るのかな。
 落ち着かなくて、店を出た後、ガウリイに「ごちそうさま」と言うと、「すごい食欲だったな」と、にっこり笑って頭をくしゃっと撫でられた。
 完全に子ども扱いだけど、女扱いされるよりいいような気がした。少なくとも、あんなドキドキよりお日様のような笑顔がいい。
 その日、あたしたちは楽しい日を過ごした。

 

目次