掌編3つまとめて
雪
真っ白になりたい――
宿の中から雪の降る外を眺めた。
今日は雪が降るからと、早めに宿をとってのんびりしていた。
その間、雪は深々と降り積もり、むき出しの茶色だった道路がだんだん白く染まっていくのを、あたしはずっと眺めていた。
それを見ていてあたしはたまらなくなって、もう外は暗いというのに外に窓を開けた。
「浮遊」
呪文を唱え、二階の窓からゆっくりと降りる。そして、音もなく雪の積もった地面に降り立った。周りは、辺り一面銀色の世界だった。すでに雪はだいぶ積もっていて地面の固さを感じさせない。
きれいきれいきれい――まるで生まれたてのような世界は、あたしの心をきれいにしてくれる気がした。
あたしは、汚いから。あたしは、血で汚れてるから。
ばたっと雪の上に倒れる。雪の柔らかさに痛みは感じず、ただその冷たさだけが感じられた。
こうしたら、少しはきれいになれるかな?
一面に広がる真っ白の世界で、この世界に染まれば少しは自分はきれいになれるだろうか?
あたしはたった一人のために、世界を犠牲にしようとした。
許されざる罪は、あたしにこびりつき、清められることはない。
だけど、こうしていると少しはきれいになれるのではないかと、そんな気持ちがして――
「……ッ! リナッ!!」
聞きなれた声により、意識が浮上する。
「がうり……?」
「お前何やってんだよっ!?」
真剣な顔をしてガウリイがあたしに怒鳴った。
そう…このためにあたしは罪を犯したの。この声を聞きたいから。この体に触れたいから。
そう思ってあたしはガウリイの首に腕を回し抱きついた。
好き、好き、好き。
何も言わないあたしを訝しみながら、それでもあたしを引き剥がすことはせず、反対にあたしを抱きしめ返す。
あたしたちは、しばらくの間そうやって互いのぬくもりを確認しあった――
二人の仲は清いままなのか、または恋人同士なのか…それは雰囲気で。
月
今夜は満月か――オレはそう思いながら暗い夜空を見上げた。
月明かりだけでも十分部屋を照らす明かりを見上げながら、オレは今までの旅を思い出していた。
気ままな傭兵稼業……だけどリナと出会ってから変わった。
今は家宝だった『光の剣』をなくし、新たなる魔法剣を探して二人で旅をしている。
リナと出会っていろんなことを知った。
そんなことをぼんやりと考えてると、不意に小さな悲鳴が聞こえる。
この声はリナだ。
オレは慌ててリナの部屋へと向かった。
「リナッリナッ!!」
ドンドンドンっと、オレは夜だというのに思い切りリナの部屋のドアを叩いた。
しばらくして、小さな音を立てて扉が開き、その後はリナが抗議の声を上げる。
「あんたねぇ! いったい何時だと思ってるのよ!!」
そういうリナは先ほどの弱々しい悲鳴を上げたなど感じさせない雰囲気で……だけどよく見ると目元が赤くなっていた。
「泣いたのか?」
「……ッ! 泣いてなんかっ……」
図星を指されて真っ赤になり違うと言い張る。ったく……ホントに意地っ張りだよな。
だけどこういう時のリナは意地っ張りで、ちょっとやそっとじゃ認めないから――
「そっか。ならいいんだ」
オレは一言だけ言ってリナに背を向けた。そんなオレの腕を弱々しく握り締める。
「いっちゃ……やだ……」
「リナ?」
「一人にしないで……」
そういうリナは今にも消えてしまいそうなほど儚げで、いつもの太陽のようなイメージを感じない。
「だったらおいで」
オレはそう言ってリナの腰に手を回した。そしてオレはそっと自分の部屋へとリナを招くよう歩き出す。リナも逆らうことをせずに素直についてきた。
一つしかないベッドの上でリナを抱き上げる。華奢な彼女の体は、難なくオレに持ち上げられた。
「リナ……リナ……」
リナの名を呟きながら、リナの額に頬に軽く口付ける。リナもおとなしくその行為を受けた。
いまやリナの腕はオレの背に回り、ぬくもりを確かめるかのようにすがり付いてくる。
「側に……いて……」
心の裡の声が無意識にこぼれ出た――というような、切れ切れで小さな呟きが聞こえる。
「リナ?」
「わがまま言ってる、の……わかってる……でも……側に、いて欲しいの……」
弱々しい声でオレを見上げながら漏れる言葉。
「側にいるよ……ずっと……側に……」
オレの言葉に安堵して、リナの瞳が少しずつ閉じられる。そしてしばらくすると安心したのか小さな寝息が聞こえた。
リナの心のトラウマ――それはオレが魔族に連れ去れたこと。
それはリナの心を苛んで、無意識のうちに心が悲鳴を上げる。
それでも側にいることがわかると安心するのか、落ち着いてまた眠りにつくのだった。
いいさ。今はそれでも。今はリナの心を守るのが優先だから。
だから――
オレはリナを抱きながら、天空に浮かぶ月をガラス越しに見上げた。
1部ラストとNEXTラストの混合品(笑) NEXTラストで光の剣消失と思ってくださいな。
ほのかにグレーを感じさせながら白いガウさん…という感じにしたかったんですがどうでしょうかね?
花
「リナ。オレと結婚してください」
月並みなセリフ、月並みなバラの花束を持ってガウリイはリナにそう言った。
おりしも今日はリナの十九歳の誕生日。
ガウリイはこの日にどうしても言いたかった。
「ガウリイ……」
リナはガウリイから「誕生日おめでとう」と言われるのだとばかり思っていた。いや、それさえも脳みそクラゲなガウリイのこと忘れているんじゃないのかと、少々リナは心配になっていたのだが……。
出てきた言葉はそれを上回る、はるかに嬉しい言葉。
リナはずっとガウリイのことが好きだったのだ。
だが、ガウリイの口から時々零れ落ちる『保護者』という言葉に、リナはもし断られたら側にいられなくなると危惧し、どうしても自分から告白することができなかった。
リナの性格的には物事は白黒つけたい性分なため、今のこの微妙な関係はリナを十分悩ませるものだったのだが……。
「えっと……ガウリイ熱は? 頭大丈夫??」
そんなリナがこんな答えを返してしまっても致し方ないだろう。
「オレは本気だよ。リナ、遅くなったけど…リナを愛してる。結婚して欲しい」
そう言ってガウリイは花束――白と紅色のバラそして、カスミソウの花束――をリナに渡した。
「あ、ありがと……」
「リナ。答えは……その、いそがな……」
「あたしも好き!」
「リナ」
「ずっとずっと好きだったの」
リナは今までの想いを思い切りガウリイにぶつけた。
「ありがとう……リナ」
ガウリイはとても嬉しそうに笑った。
リナもつられて笑みを浮かべた。
「ね。なんで白と赤のバラなの? もしかして花言葉を知ってたの?」
リナは不思議に思った。確かにプロポーズするならオーソドックスと言えるかもしれない。だけど、リナはガウリイがどんな思いでこの花を選んだのか知りたかった。
「んー。花屋の姉ちゃんに、プロポーズするにはどんな花がいいか聞いたんだ。確かバラだった気がするんだけど、確かあれって色によって花言葉が違うんだろ?」
「そうよ。だから気になったの」
「赤いのは『貴方を愛してます』って意味だって。白いのは『心からの尊敬』ってのを」
「『愛してる』わかるけど、『尊敬』って……」
さすがに聞いてみるものの、面と向かって言われると恥ずかしいのか、だんだん赤面してくるリナ。
「あー……花屋の姉ちゃんに頼んで作ったのだけど、合ってるかなぁ?」
「合ってる?」
「ああ、『好き』そして『尊敬』どっちもあるからな」
「『尊敬』って……」
ガウリイの口からさらりと出てきた言葉にリナが口ごもる。
嬉しいには嬉しいが、それは誇大評価ではないかと、ガウリイの言葉を素直に肯定できない。
自分では『美少女天才魔導士』だのと言っているのに、だ。
そんなリナの表情を見て、ガウリイは苦笑している。
「してるさ。会ってすぐ……魔王に立ち向かっていこうとしたリナを尊敬したんだ」
「……」
そんな前からなのかと、リナは照れながらガウリイの言葉を聞いた。
リナ自身、滅茶苦茶をやっている自覚があるため、尊敬などという言葉出てくるとは思わなかったのだ。
「あ、カスミソウは覚えてるぞ」
「いや、ふつーに花束についてるでしょ」
「これにも意味があるんだってさ。えーと……」
と言って、ガウリイはズボンのポケットからなにやら紙切れを取り出した。
さすがに覚えきれずに、書いてもらったらしい。
それを見て今度はリナが苦笑した。
プロポーズするときも締まらない――ガウリイらしい姿に少し安心したのもある。
「えっと、『白いカスミソウ』――これは『秘めた愛』ってのと『愛して』って意味。ずっとリナへの想いを『保護者』だなんて言って隠してたんだ。……いや、隠してたんじゃないな。いつの間にかに気づいて……でも言えなかった」
「……」
「あと、『愛して』ってのはそのまんま。オレのこと好きになって欲しいと思ったから」
「……好きよ。……あたしも」
悔しいけど、ガウリイのことを『嫌い』だなんて言えない。
「うん。嬉しい」
そう言ってガウリイがそっとリナを抱きしめた。
いつもなら恥ずかしがってしまいそうな行為も今は嬉しさのほうが大きいため、リナはおとなしくガウリイの腕に抱かれた。
「ずっと側にいてくれよな」
「……うん。ガウリイも側にいてね」
しばらくして、二人は立ち寄った小さな町の協会で、密やかに二人だけの式を挙げた。
は…花言葉って難しい… 実は白バラには「処女の心」とかあるんですよね。
だから、裏の意味で「リナの処女をください」ってのも実は含まれています(笑)
ちびーっと黒ガウ入り。