二杯目のお酒

 とある町の小さな酒場。だけど、そこはその町では一つしかない酒場なため、人が多くあちこちから賑やかな声が上がっていた。
 そんな中、店の片隅にいるのは、女性が見たら放っておかないだろう容姿の持ち主の青年と、彼との関係を勘ぐりたくなるような小柄でまだ子どもといって差し支えない少女。
 だけど、時折見せる表情は見た目より年を感じさせた。

「はー仕事の後の一杯はいいわねー」
「だなー。うまい!!」

 二人はのんびりとそんな会話をしながらグラスを少しずつ軽くしていく。
 少女は甘めのジュースに似たお酒を。青年は度数のきつい火酒をロックで飲んでいる。

「それにしてもよくそんなの飲むわね」
「ん? これか?」
「そう。アルコール臭だけでおいしくないじゃない」

 まだアルコールに慣れていないのか、少女はアルコール臭のきつい度数の高い酒を飲む気にはなれない。
 ジュース感覚で飲めて更にほんのり酔えるお酒を少女は好んで飲んでいる。

「うーん……オレにすると、お前さんがこんな酒をガバガバ飲んだら、それはそれで嫌だぞ」
「言ってくれるわね。自分はキツイお酒を平気で何杯も飲んでるのに」

 少女は自分のアルコールに対する弱さを指摘した青年――実は仕事、また旅においての相棒でもある――を見つめた。
 納得いかないといった表情で、アルコールが入りほんのり赤く染まった頬で拗ねられて、青年は微笑ましい気持ちになる。少女はもとより感情が激しいものの、照れ屋で恥ずかしがり屋なため、感情をそのまま出すのは旅の相棒である青年しかいない。
 要するに、少し恥ずかしがった、また、女を匂わせるような表情を見せるのも彼だけにだった。

「まあ、酒に強い、強くないがあるからなぁ。リナはあんまり強くないみたいだし」

 青年は少女――リナに対して苦笑をもらしながら答えた。

「そういうけどね。ここの酒代いったい誰が払うと思ってるのよ、ガウリイ?」
「それは……」

 ガウリイと呼ばれた青年は、少女リナに財布を握られしっかり管理されていたため、頭が上がらないところがある。
 そのお金の半分はガウリイが稼いだものでもあるのだが……本人はあまり気にしてないらしい。

「ま、いいけどね。食べ物に関してはケチりたくないし」
「……ほっ」

 ガウリイはそんなリナの返事に安心して、また酒に口をつけた。
 リナは頼んだつまみとお酒を交互に口にしていく。お酒に弱いので、つまみで時間を稼ぐのだ。
 しばらくして、二人は今飲んでいるグラスがほぼ同時に空になった。

「さってと。もう一杯♪」

 そう言って手を上げ店員を呼ぼうとしたところ、ガウリイに手を押さえられ遮られる。

「ダメだ」
「えーっ」
「お前さん。弱いんだから。楽しんで飲むならこれくらい……な」
「ガウリイはいっぱい飲んでるじゃない!」

 リナはガウリイは何杯も飲むのに対し、自分は一杯だけだと宣言されて不満が湧き上がる。
 そのため意味深にリナの手を握っているガウリイにリナは気づかない。

「そう言ってこの間べろんべろんに酔っ払ったのは誰だよ」
「あら誰かしら?」
「こら、リナだろうが」
「あー……そんなこともあったかもしんない」

 長年保護者をしてきたガウリイは、リナの自分の飲み量を考えず飲んでしまうことに危惧していた。
 リナにしてみると、それはガウリイが隣にいるからこそできることなのだが。
 まあ、当然のようにかぱかぱ飲むガウリイに対して対抗意識も多少あったが。

「なら……」
「ん?」
「なら、オレの部屋で飲むか?」

 ――これはいつもの誘いの文句。

 ガウリイの部屋で飲むということは、そのまま夜をガウリイのところで過ごすという意味だった。
 二人は“保護者”と“被保護者”の関係から恋人という関係になりたくて、互いに特別な人になりたくて、どちらからともなくそういう関係になった。
 今までと比べて関係は密になったものの、ガウリイ自身保護者を捨てきれないところもあり、リナもまたガウリイに依存しているところがあった。それは日常の何気ない言葉、仕草で現れる。
 二杯目のお酒は、そんな二人の“保護者”と“被保護者”の境界を越える瞬間。
 言い換えれば、恋人として対等に過ごす時間。

「そうね。そうしましょう」
「そっか。じゃあ行くか」

 そう言って二人は立ち上がる。
 勘定を済ませ、新たな酒を一本購入しガウリイの泊まっている部屋のドアを開けた。
 そして二人で部屋に入りドアを閉める。

 ここから先は二杯目のお酒と、二人の恋人としての時間。

 

 

二人の関係が変わり始めた頃はこんな感じで合図があったりして…という想像で。

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