私には妹がいる。
私より三つ下の妹は、大きな赤い目に可愛らしい顔立ちの娘だった。
私は妹が十五の時に、『世界を見て来い』という言葉で、まだ幼い妹をこの世界へと放り出した。
とはいえ、それまでに私は出来る限りのことを妹に教えたつもり。
そう、生き抜く力を――
その通り、妹は魔族とやりあっても勝ち抜くことが出来たわ。
そして信じられないことに、魔王シャブラニグドゥと戦い勝った。
私は魔王と対なす神――赤の竜神・スィーフィードの力の欠片を宿しているため、その様子は大気を通して分かった。
苦しい戦い――でもそこで仲間、親友とも呼べるべき、かけがいのない人たちを得た妹。
そして、そのうちの一人は『自称保護者』として、妹にずっと付き添っている。
それから、もいろいろな事件が妹たちを襲った。
並みの人間なら――いいえ、私でさえ生き抜くことが出来ないかもしれない戦いを、妹は見事に勝ち抜いてきた。
それはどれほど辛い戦いだったろう。
そしてどれだけ傷ついたのだろう。
でも妹はいつもちゃんと立ち上がった。辛くても立って歩くことを知っていた。
それは――私が教えたことが無意味じゃなかったと……そう思いたい。
その妹から、魔道士協会を通してゼフィーリアに戻ってくると聞いた。
妹にずっと付き合っていた、『自称保護者』さんと共に。
『記憶球』で『自称保護者』さんのことを語る妹は、恥ずかしそうに少し頬を染めながら私に語った。
そこには旅立つ前の幼い面影はなく、大人の女が見えた。
私は妹の成長を嬉しさと寂しさを感じながら、「父さんが手ぐすね引いて待ってるわ。覚悟しなさい」と伝えて話は終わった。
私は魔道士協会から外を出て、整地された道を歩いて家へと戻る。
ふと空を見上げて、先ほどのリナの顔を思い浮かべた。
――良かったわね。リナ。
『赤の竜神の騎士』の妹ということで、妹には何度も辛い目にあわせたと思う。
何かあると、私の妹だからこれくらい、私の妹だから当たり前――そんな言葉がいつも妹には付きまとった。
だから妹には、それは過ぎるだろうということまでいろいろと教え込んだ。負けず嫌いな妹は泣きながらも頑張ってそれに耐えた。
でもね、リナ。私はそんなあなたに憧れているの。
私は『赤の竜神の騎士』としての務めを果たさなければならないから。
あなたのように、好きに世界を飛び回れないから。
確かに人から見れば超越した力を持ち憧れる者もいるだろう。
だけど、自分の立場にがんじがらめにされた私には、たとえ弱くても自分の力のみで生きていく人に憧れる。
なにより、人として生きて、それでも魔族に立ち向かおうとする妹には、果てない憧れを抱いてやまない――
ルナさんの心境をなんとなく。
やっぱり『赤の竜神の騎士』としていろいろと制約があるんじゃないかな…と。
だから自由なリナにあこがれている一面もあるんじゃないかと。