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第04話 長い夜(2)

『私の力はユウカに受け取って欲しいと思う』 優しく手を取り、静かに告げる言葉は、とても魅力的に見える。 けれど、優花には、それよりも力を得ることに対する抵抗力のほうが強かった。いつの間にかこくんと喉が鳴る。 力を得ればここに居るのに罪悪感を...
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第04話 長い夜(1)

扉を開くと中は薄暗かった。 小さな明かりがいくつか灯っているが、天井などは闇に包まれている。どこから天井で、どこまで壁なのか分からない。 優花がドキドキしながら辺りを見回していると、ギィ……と入ってきた扉が閉じられた。 慌てて扉引いてみるが...
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第03話 出会い(6)

道すがら、優花は優花なりに考えていた。 魔物といえど生き物を殺したくはない。でもそのことを黙って宮にいた場合、人の懇願する感情に対面していかなければならない。 ならどうすればいいのか。「あ、ベルさんの言っていた『精霊術』ってのを覚えれ、ば少...
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第03話 出会い(5)

「そんなに帰りたくないのか?」「帰りたくない」「帰りたくないのなら……仕方ないが――」「いいの!?」 ベルディータの言葉にガバっと抱きつくようにして問う。 その勢いにベルディータが軽く後退るのがわかったが、見逃してもらいたいという気持ちのほ...
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第03話 出会い(4)

「元の世界に戻れないのも分かってるけど、普通の生活できるなら文句言わないから、早く次の神様見つけて欲しいんだよね」 優花にしてみると、ファーディナンドに少しでも早く優花より相応しい人を見つけてもらわなければ困る。「そうは言うが……前の神が選...
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第03話 出会い(3)

吐き出すものを吐き出したら気が楽になった。 しばらくしてから、優花は手で涙をぬぐってベルディータから離れた。「ありがとう。ベル……ティーダさんって優しい人だね」「……私の名前はベルディータと言っただろうが」「あれ、そうだっけ?」 どうやらテ...
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第03話 出会い(2)

優花は念のため静かに起き上がってみた。 体を動かしても痛みは感じないし、よく見れば破れた服はともかく、出血までしていた腕が綺麗に元に戻っているのを見て素直に驚く。「すごい……ホントに治っちゃってる……」「他に痛むところはあるか?」「んーまだ...
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第03話 出会い(1)

あれからどれくらい時間が経ったのかわからなかった。 右肩がジンジンと痛む。出血もしているようで、嫌な鉄の匂いが優花の鼻にも届く。血の匂いに誘われて肉食獣が来たらと思うとまた恐怖に襲われ、なんとか起き上がろうとする。けれど、そのたびに右肩にも...
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第02話 異世界キト(4)

エラトたちを帰すと、先程の神官が心配そうに優花に尋ねる。「あれでよろしかったんでしょうか?」「分からないけど……でも嬉しくないのに『おめでとう』って言われても嬉しいと思う?」「それは……。でも、神官長様にはどう言えば……」 神官長という単語...
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第02話 異世界キト(3)

優花は体をゆさゆさと揺さぶられて、少しずつ意識が覚醒する。「んん、なに……?」「起きてください、ユウカ様」「もー少し……」「早くしないと神官長様がお見えになります」 パチ。「それ早く言ってええええ!!」 ガバッという効果音が似合うかのように...
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第02話 異世界キト(2)

ファーディナンドに急かされるようにして部屋を出ると、白い服を着た人たちが大勢跪いていて、優花は驚き一歩後ずさった。 確か宮といったか、神が住まう場所ならば、それに仕える人も多いだろう。でもこういったのを見慣れていない優花には、十分逃げたい要...
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第02話 異世界キト(1)

白い空間をしばらく漂った後、ふと背中に何かを感じて、優花はそっと目を開けた。 手を動かすと硬くて冷たいものにあたる。なんだろうと数回撫でてみると、それは大理石のように磨かれた石の床だと気付いた。(なに? ってか、ここどこ?) 横たわっていた...
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第01話 呼ぶ声(4)

赤くなった慎一を涼子とまどかの二人でからかっている。 涼子とまどか二人を相手に何か返すから、次から次へとやりとりを続けることになるのだ。だからある程度のところで切り上げたほうが延々続かなくて済む。 優花にとっていつものことといえばいつものこ...
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第01話 呼ぶ声(3)

早足だったせいか、学校にはいつもの時間通り着いた。 ついでに保健室へと行くくらいの時間があったので、優花は慎一に連れられて保健室へと向かう。 優花は小さな怪我をよくするので保健室の常連だった。保健室の先生と気軽に挨拶してから怪我の話をすると...
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第01話 呼ぶ声(2)

朝食を食べ終わるといつの間にかに不安は消え、機嫌よく家を出た。行ってきます、という声と同時に玄関のドアを開ける。「あ、おはよう、シンちゃん」「よっ、優花」 家の入口の前には制服と思われる格好の男の子が立っている。 彼は優花にとっては隣に住む...
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第01話 呼ぶ声(1)

彼女は気づくとそこは何もない空間に立っていた。 白く、そしてところどころわずかに虹色に輝く空間に。 いきなり知らない場所にいたのか、彼女は呆然としつつ首を傾げた。 夢なのか、はたまた死後の世界というやつなのか。夢ならいいが死後の世界だとした...