私の名前は鈴木梨里。高校2年生で、年子の妹、梨世との2人姉妹。両親は共働きで、多分、普通の家庭なんだと思う。
母もフルタイムで働いているので、家事は妹と2人でしている。母に言わせると、「2人とも、いつでもお嫁に出せるわ〜」と、妹の作った天ぷらを食べながら呑気に呟く。いやいや、私たちはまだ高校生だからね、と言いたくなるけど、面倒だからやめた。まあ、せめて「一人暮らししても平気ね」ぐらいにして欲しいとは思ったけど。
妹とは年子のため、仲のいい友人とも思えるけど、妹は妹。お姉ちゃんとしての姿も見せなければ、とは思う。
また、この妹は可愛いのだ。顔の造りというより、考え方が、纏う雰囲気が。おっとりとしていて、だけど芯はしっかりしている。そして、纏う雰囲気は人をリラックスさせる何かが出ているんじゃないかと思うほど、怒っている人も落ち着かせる何がある。そんな妹が、私は可愛くて仕方ない。
なのに、昨日の妹は心ここにあらずで、心配になってしまう。あの子の友達は同じように控えめな性格の子が多く、友達と喧嘩をしたとは考えられない。しかも、妹は自分が悪ければ、きちんと謝ることが出来る子だ。
そんな子が、何か悩んでいるとなれば、気になって仕方ないだろう。
――というのを、友達に相談すると「相変わらずシスコンだねぇ」と返されてしまった。
「だって、妹よ? 可愛い可愛い妹が悩んでいるんだから、気になるに決まってるじゃない」
「だから、そこがシスコンなんだってば。梨世ちゃんだって、姉に言いたくないことだって出てくるものよ」
「そうかも知れないけどぉ、やっぱり気になるじゃない」
ちなみな、朝はいつも通りの梨世に戻っていた。なので、昨日のように質問することはなかったんだけど……。今日、帰ってまた様子が変だったら、悪いけど聞いてみよう。秘密を作るのは別にいい。だけど、悩んでいるのなら別だから。
頼れるお姉ちゃんでありたいとは思わないけど、1人で悩んでいるくらいなら、一緒に悩んであげたい。
「まあ、梨世ちゃんなら、梨里が心配するのもわかるけどね」
「そうねぇ。危なっかしくて放っておけないんじゃなくて、つい、構いたくなっちゃうのよね、反応が可愛くて。こっちが話しかけると、ちゃんと答えようとしてくれるし、いい子だもの」
そうそう! うちの子はとっても可愛くて、なんでもしてあげたいって思っちゃうの! と、言いたい所を、またシスコンと言われそうなので黙っていた。
でも、実際、私の友達だって、家に来ると梨世の事を構うのよね〜。梨世も嫌がらずに相手するから、友達も「こんな妹なら、私も欲しい!」「うちの弟と交換して!」とか、言われちゃうのよ。
何なのかしらね? なんか、癒しオーラが出てるというか。まあ、そういう理由で、妹は私の友達からも可愛がられている、自慢の妹なの。
「あげないわよ?」
あの子は私のたった1人の大事な妹なんだから。あらやだ、もしかして、あの子が結婚したい相手を連れてきた場合、両親よりも私の方が採点が厳しいかも?
うーん……、相手の採点は厳しくしたいけど、それで理世が悲しむのは嫌だなぁ。
「梨里、あんた何処まで考えてるのよ?」
「え? そうね、妹が結婚したい相手を連れてきたら、採点が厳しそう――って、思っただけだけど」
「いやいや、暴走するのは止めなさいって」
「まだ高校生でしょうに」
「あ、そうね。まずは彼氏からかしら?」
確かに、結婚は一足飛び過ぎる。その前に彼を紹介される方が先だろう。
「ほら、また暴走してる」
「だって、気になるじゃない」
「はいはい。とにかく帰るわよ」
そう、妹の心配をしつつ授業を受け、気づいたらあっという間に放課後だった。
友達はすでに荷物をまとめて鞄を持っているので、私も慌てて帰る準備をした。必要なものを鞄に詰め込み、椅子から立ち上がる。
「ごめん、お待たせ」
「はいはい、帰るよ」
友達2人と教室を出て廊下を歩き始めた時、肩をグッと掴まれ「待ってくれ!」、と強い口調で声をかけられた。
「はい?」
振り返ってみると、そこには女子に人気な近江遥斗が、焦った表情で私の肩を掴んでいた。
「何の用?」
私は彼の事を知っているが、直接話した事はない。クラスも違うし美形は目の保養になるかもしれないけど、告白しようと思うような恋心はない。
逆に、馴れ馴れしく肩を掴まれて、つい口調に剣呑なものが混ざった。
「……すまない。彼女かと思った」
「はあ」
彼女、彼女居たんだ。告白してくる女子を悉く振っているという話だったけど。
あれ、待って。彼女と間違ったと言う彼。昨日の妹の戸惑っている様子。それらを当てはめると、昨日、妹と何かあって(妹にとっては予想外過ぎる事)、そして、今日は妹に似ている私と間違った――という事かしら?
それなら、話をしっかりしないといけないよね?
「とりあえず、手を放してもらえる? そして、説明してもらってもいいかしら?」
にっこり笑って答える。
友達には、「なんか用があるみたいだから、先に帰ってくれるかな?」とお願いしつつ、彼が肩から手を放したのを確認して、逃げられないよう、すかさず彼の制服を掴む。
「……分かった」
彼は観念したのか、短く了承した後「ここじゃなんだから」と、人の居ない場所へと促してきた。ま、学校だし、何かあれは叫べばいいよね、と軽く考えて、私は彼の後を追った。