「ついでに保険じゃないけど、バレて面倒なことになったら、城から出してくれる?」
「いいのか?」
「まあ、当面の生活の保障さえあれば。今放り出されても困るけど」
「わかった。俺の領地は割とここから離れてるから、そこで静かに住めるように手配しとく」
「……ん、お願い」
止めにもう一つ念押しして、身の安全を確保。
マリのように立場が決まっている状態ならともかく、あたしはあやふやな立ち位置。別に嫌じゃないけど、それを利用されるのは嫌。何より、マリに迷惑がかかる。
他の王子が出てきて、そっちのほうがいいと言った時は、ヘルベルト殿下には悪いけど、その人と一緒になればいいとあたしは思う。
けど、もう一人、マリア=サトーがいて、あたしのほうが本物でマリが偽物だとほざく奴がいた場合、マリの存在が危ない。そんな事にはさせられないから。
ふっふっふ、いいじゃない。田舎。この世界じゃ、本当に田園風景なんだろうね。のほほんとしていたいいじゃない。(もちろん、それだけではないのはわかっているけど、夢を見たいのよ、夢を)
「話が弾んでるみたい……って、マリ、あんたどれだけ飲んだの!?」
室内に戻ってマリに声をかけたのはいい。
けど、見ると空になったボトルが数本近くにあるんだけど……大丈夫なの?
「あ、リア、やっと戻ってきた。ラルスさんも」
「う、うん。だいぶ酔いも醒めたみたいだから……」
「良かった。あまり無理しちゃ駄目だよ?」
その言葉、そっくりあんたに返す!
そう喉元まで出かかったけど、数本ボトルを空けてもマリは酔ってろれつが回らないとか、どう見ても酔ってるだろ、という雰囲気ではなかった。
酒豪ってすごいんだね……
もはや水のようにグラスを持ってこくこくと飲んでいるのを見て、内心「すごい」の一言だった。
***
夕食はあたしたちが室内に戻ったのでこれでお開きになった。
部屋に戻るマリは、あれだけ飲んだのに足取りがしっかりしてる。あたしにしてみると、もうすごすぎてツッコむところがない。
部屋に戻ると、マリと一緒にお風呂に入ることになった。
お風呂といっても浴室があってシャワーがあって、浴槽があって……というわけじゃない。どちらかというと洋風スタイル(しかも中世? 手動だから)。なのであたしたちがご飯を食べている間に、ヘルガさんたちがお湯を沸かして、部屋にぽつんと置いてあるバスタブに入れてくれてある。
冷めちゃうと入れ直すことになるので、一緒に入ることにしていた。ちょっと狭いけどね。今日はいつもより夕食に時間取ったから、お湯がいつもより冷めてそう。
他人に入れてもらうということに慣れてないあたしたちは、最低限の用意だけしてもらって、あとは自分たちで……ということにしてもらっている。
ちなみにお風呂はバブルバスなので、泡だらけの中に二人で入っている。これ、お湯で流さなくてもいいんだけど、どうもマリが納得いかない――石鹸で洗ったら流すって思い込んでいる――みたいで、体についた泡を落とすためのお湯も用意してもらっている。
本当は流さなくても肌にいいものなんだけどね。習慣なのだから仕方ないか。
「はー……温泉入りたい」
そんなことを思っていると、マリがいきなりぼやいた。
「どうしたの?」
「ううん。お風呂ってこういうのじゃなくて……のんびり湯船につかりたいというか……」
「あー……マリは根っからの日本人だものね」
このお風呂の場合、バスタブの中で体を洗うので、ゆっくりお湯につかるという感じではない。マリにしてみると、純粋にお湯につかってのんびりしたいのだろうというのがわかる。
「リアは慣れてそうだけど」
「まあね。シャワーだけとかも多かったから」
「生活習慣って結構残るものなんだね。いつもしてることと違うと違和感があって……なかなか馴染めないの」
「仕方ないよ。マリは引っ越しとかで環境が変わることもなったんだし」
半分泡で遊びながらマリに答える。
お風呂はマリと二人きりで話す少ない場所なので、ヘルガさんたちには悪いけど、バスタイムはかなり長い。
でもマリの息抜きに――と言えば、ヘルガさんたちも強く言えないので、黙って見逃してくれている。
マリにとってリラックスできる時間になっているのも事実だしね。
「ねえ」
「なに?」
「どうしたら……胸、大きくなるの?」
「……はぁ!?」
色々考えてると、マリに突拍子もないことを聞かれて間抜けな声を上げた。
ちなみにあたしはEで、マリはBカップ。でもこれは人種の差で仕方ないものもあると思う。あたしのサイズは別に普通だと思うし、マリだって胸がないってわけじゃない。
「何を今更……」
「だってここに来て、みんなスタイルいいんだもん。ちょっとヘコんだの」
「あたしは逆にマリがEカップもあったら嫌だな」
「なんでよぉ?」
体形を考えてほしい。マリとあたしでは身長が十センチ以上違う。
それだけ違えば、スリーサイズから体重まで全く違う。要はバランスが取れていればそれでいいと思うわけで……実際、マリはあちこちスラリと細くて華奢に見えるけど、バランスはいい方だと思う。
「それより、殿下となに話してたの?」
「え? それは……不自由してないかとか、必要なものがあったら遠慮なく言って欲しいとか……」
「殿下の気持ちとか聞いたの?」
「え!? 聞けるわけないよ!」
……何やってるのよ……全然進んでないじゃないの……!
はーーーっ、と深いため息をつくと、マリが「リア?」と覗き込んでくる。
「全く……そういえば、マリは殿下のこと、どう思っているの?」
「なっ、リア、何言いだすの!?」
「何言いだす……じゃなくて、その気にならないと結婚したあと大変だと思うから」
なんか、異界の女性ということですごーく大事にされるみたいだし、性格の不一致とか、その……体の相性が合わないから――という理由で簡単に離婚とか出来そうにないみたいだし。
だからマリが殿下のことを好きになって、結婚したいって本当に思ってくれるのがベストなんだけど。
……マリはちゃんと理解してるのかしら?