二人の花嫁 2

 通された部屋は召喚された人のために用意されたもののようだった。
 要するに、女の子向けのかわいらしい部屋。
 ぬいぐるみとかそういうものがあるわけじゃないけど、室内は淡い暖色系でまとめられていて、クッションとかが可愛らしいデザインになっている。
 ベッドは……当たり前だけど一つ。
 そりゃそうだろうね、ヘルベルトさんのお嫁さんになる人物を呼び出すんだから。これで複数OKなんて言ったら速攻、張り倒す。

 ……ちょっと待て。あまり好戦的になるのは止めよう。
 とりあえず情報収集をしなければ、現状の理解が出来ない。

 ってことで、とりあえずソファーに座って話を始める。
 室内にいるのは、ヘルベルトさんと彼に話しかけていた男の人とマリとあたしの四人。
 メイドさんがお茶を持ってきてくれて、それを飲んだらなんとなく落ち着いた。
 それから話が始まる。

「改めて……私はヘルベルト = リクセト=シェルヴェン。この国の第一王子になります」
「第一王子であり、王位継承権第一位ってことですか?」
「はい、そして、わが国では――他の国でもありますが――四代に一度、異界から妻となる女性を呼びます」
「どうしてですか?」

 なるほど、ヘルベルトさんは王様じゃなくて、王子様だったんだねー。ってことは、ヘルベルト殿下と呼んだほうがいいのかな?
 マリはこの状況についていけないのか、カップを持ったまま質問もしないでいる。
 そのため、必然とあたしが話し相手になる。

「それについては私も……すでに習慣になっている、と言っていいでしょう。そして、私でその代になりますので、妻となる女性は異界から――と言われていました」
「刷り込みですねぇ」

 ついでに言うなら、ヘルベルト殿下は御年二十一歳。
 変な習慣のせいで、今まで女性とのお付き合いは制限されていたそうな。
 うーむ、お気の毒に。
 なぜ二十一までというと、占いとか星回りとかそういったことのようで。後、なんであたしたちの名前を知っていたのかというと、占いで殿下に合う女性を選んだ結果だそう。こっちでの言い方なら、マリア=サトーという名前の女性を。
 しかし、そのマリア=サトーが同じ場所に二人揃っているとは思わなかったそうで。

「しかし……、いくら同じ名前だからって、普通なら弾かれるはずなのになぁ。情報では、マリア=サトーって名前だけど、生まれた日が芽吹きの月の二日目のはずだろ?」
「芽吹きの月の二日目?」
「ああ、季節的には春から夏へという頃か」
「……マリもあたしも、同じ日に生まれてるんです。ついでに言うなら初夏」

 もちろん、場所はまったく別だけど。
 マリは日本で、あたしはアメリカで。時差はあっても生まれた日は一緒になった。
 ……と説明すると、「じゃあそのせいだな」と簡単に返された。
 簡単に、お気軽に話をするのは、殿下の幼馴染兼側近で、ラルス=ダールと名乗った。殿下より年上だねって思う余裕がある。

「で、呼び出そうとしたのがマリで、あたしはマリにすごーく近いけど違う人物……でいいですかね? となると、あたしはどーなるんですかね?」
「それは……」

 殿下、口ごもってるよ……。これは他はともかく、異世界から召喚する人を相手にする場合、一夫一婦制のようだ。
 良かったね、マリ。後宮でのドロドロ展開はなさそうだよ。
 って思ってマリを見ると、まだ目尻に涙を溜めている状態だった。根に持ってるなぁ。

「それについては、すまんが還す方法は分からない」
「え?」
「本当かどうかは分からないが、召喚された人物は元の世界からその存在を失くすとある。まあ、二つの世界に同時に存在できないってことか」
「ちょっと……それじゃあ!」
「マリア=サトーは、元の世界で最初から存在していなかったことになっている。その存在を知る者も、マリア=サトーの記憶はないだろう」
「……」

 ということは、還れないし、還ってもあたしたちを知る人は誰もいない……ということか。
 となると、あたしが居なくなっても『マリアはどこ行った?』と探してくれる人はいないわけだ。もともと居ない人なら探しようもないしね。
 じゃあ……

「えーと、勝手に呼び出した責任として、衣食住の責任とってもらえます?」

 ここは相手に面倒見てもらうしかないでしょう。
 堂々とそれくらいやってくれるだろうね? ってことを言えば、殿下はきょとんとした表情になり、ラルスさんは数回瞬きした後、笑い出した。
 後から聞いたけど、この世界で女性の地位や発言力は弱いらしい。しかも相手は王族――かなり無礼な発言だったようで。
 ま、そんなことは知らないあたしは、はっきり言っちゃったわ、ははは……

 結局、マリも不安だからマリの話し相手として一緒にいることになり、その間にあたしはこの世界のことを覚えることにした。
 最終的にマリは殿下と結婚していずれ王妃になるんだし、その頃には離れられるくらいこの世界に慣れておかなきゃ。
 一応、外国で生まれ育ってハイスクールに入ってから日本に来た。年にすると十七近く――高校二年生になった。
 来日するまでに日本語は覚えてたけど、実際に話してみると思ったように通じない。というか、言葉どおりとってくれない。何度も上手くコミュニケーションが取れなくて苦労したことを考えれば、言葉もしっかり通じるし賓客という扱いのため衣食住に不自由はない。
 いや、むしろ贅沢?
 朝からこれでもかってほど食事がでるし。ただ、ここの食事は基本的に洋食。米がないし、肉や魚も焼くにしろ煮るにしろ、バターやクリームなどを使っているこってり系が多い。
 そのせいでマリが胃もたれを起こして食欲不振になってる。

「マリ、パンとスープくらいは食べたほうがいいよ」
「うん、……リアは平気なんだね」
「そりゃ、こういう食事のほうが多かったもん」
「いいなぁ。美味しいご飯なのにちゃんと食べられないってもったいない……」

 お腹をさすりながらマリがぼやく。
 うーん……食事について殿下に一言言っとくか。
 このままじゃ、いつかマリが倒れてしまう。

 

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