ニンギョヒメ

 人魚姫は愛しい王子様のために、声を引き換えに陸を歩く足を手に入れた。
 けれど、彼女の想いは届かず、最後には泡になって消えてしまう。
 それは昔絵本で読んだことのある、悲しい、悲しい物語。

 

 ***

 

「えーとぉ、じゃあ、被害(?)にはあってるけど、犯人……というか、誰がやっているのか特定はできない――ということですか?」

 あたしは出された香茶をずずーっと啜ったあと、依頼主であるフレデリック=オリヴァーさんに尋ねた。
 彼の依頼は最近身近に起こる妙な現象――実際事件として扱っていいのか困るようなものが多く、どこに相談していいのか迷っていたらしい。
 たまたまその怪現象に出くわしたあたしが、ものの見事に解決したため、そのまま彼の依頼を聞くはめになった。
 ちなみにその怪現象とは、なぜか大量にいきなり空から降ってきた『焼き芋』を見事に平らげたというもの。あたしと、なぜかくっついてくる金魚のうんちことナーガだったら朝飯前だけど。
 噂の金魚のうんちはソファーに座ったあたしの膝を枕にすぴすぴと昼寝をこいている。
 いきなり立ち上がって転がしてやろうか、と思うがそこはそれ、一応依頼主の手前、震える手をなんとか抑え、ティーカップを持ちもう一回口にした。

「ええ、本当に先ほどのようにいきなり出てくるもので……魔法とか何かを使ったりしない以上、無理だろうといういうようなことばかりでして」
「なるほど」
「その……怪現象なんですが、僕がふっと何かを欲しいな、と呟いた時に起こるので……」

 まじめな表情で語るが、要するにフレデリックさんが欲しいというものが、限度というものを考えず、ところかまわず目の前に落ちてくるらしい。
 となると。

「じゃあ、さっきは『嗚呼、焼き芋食べたい』なんて思いました?」
「ええ。季節はちょうど秋。芋を焼いて食べたらおいしい季節だ――と空に浮かぶ芋の形をした雲を見て、ふと呟いてしまって――」
「そーですか。サンマじゃなくて良かったような……」
「ああ、そうですね。あれだけのサンマだと、さすがに無駄にしてしまいますからね、さすがリナさん、そこまで読んでいるとは」

 そ、そこまでもなにも、普通考えるでしょうに。どうも見た目はいいけど、かなり変わった兄ちゃんらしい。
 またもや香茶をずずーっと飲みながら、依頼主であるフレデリックさんを見つめた。金色のさらさらした少し眺めの前髪をかき上げながら、緑色の瞳は宙を見上げている。
 うーん、悦に入ってる。確かに見た目様になってるんだけど、手まで付けられるとちょっとさぶいぞ。

「すでにこういうことが十回以上――僕としても、物をいただけるのは嬉しいけれど、僕一人でなんとかするには多すぎる量ですし」
「問題はそこかい!? フツーいきなり降ってくれば怪しいって思うほうが先でしょうが!」

 いや、人を疑わないという点では本当にいい人なんだけど、やはり問題はそこじゃないだろう。

「なにを言うんです! 食べ物をくれるなんて親切な方に決まってるじゃないですか!! それにリナさんたちだって抵抗感なく食べたじゃないですか!?」
「あ、あたしは……あたしはちゃんと毒が入ってないのを確かめてから食べたもの」
「毒!? そうか、毒という可能性もあったのか!!」
「考えてなかったんかい……」

 微妙に疲れる会話をしながら、それでも犯人――といってもお礼を言いたいために見つけたいという。あともう少し量を加減してほしい、ということ。
 そのために、フレデリックさんは見つけられたら金貨五枚という金額を提示してくれた。

「もちろん、時間がかかったらかかった分上乗せします。それに食事も」
「をを! 食事もオッケー? ならいいわ。でも見てたようにあたしはよく食べるわよ」
「構いません。先ほどのように『嗚呼、じゃがバタが食べたい』と言えば――」

 途端どさどさっとホクホク湯気が上がった大量のじゃがバタが降ってくる。
 うーん。いいかほり。

「ね? こうすればいくらでも食べるものはありますから」
「……さいですか。」

 フレデリックさん、なんだかんだ言ってちゃっかりこの怪現象を利用しているわ。
 あたしはほくほくのじゃがバタをもぐもぐしつつ、一応依頼を受けた。

 

 ***

 

「まあ、そうは言ってもまったく手がかりがないんじゃねぇ」

 いまだすぴすぴと眠るナーガを、紐で縛って台車に乗せてずるずると引きずって、フレデリックさんの家を出る。
 ナーガがいると依頼料は半分になってしまうけど、人外魔境のようなのが相手なら、あたしよりナーガのほうが最適だ。くらげや木の根などに人徳(?)があるようなヤツだから、なにかしら使いようがあるかもしれない。
 ま、なかったらドサクサに紛れてふっ飛ばせばオッケーってことで♪
 そう思ってナーガを紐で縛っていると、フレデリックさんは親切にも台車を貸してくれたのだ。おかげでだいぶ運びやすくはなった。
 でもこれからどうしようかなーと思いつつ、フレデリックさんの家の門を見ると、そこに十代前半の可愛らしい女の子が目に入った。
 幼い顔立ちだけど、綿菓子のようにふわふわとした茶色い髪が肩よりちょっと長いくらいで、大きな目はフレデリックさんと同じ緑色の瞳だった。
 もしかしてこのパターンから行くと、この子が犯人だったりして……?
 ……。はっ、そんなご都合主義があるわけないない、と思いつつ、それでも念のため尋ねる。

「どうしたの? このうちになんか用?」

 あたしは努めてにこやかに声をかけると、その子はびくっとして門の柱にべたっとへばり付いた。

「あの……おぢょうちゃん……?」
「……」
「用があるならフレデリックさん呼んでくるけど?」
「フレデリックさん!? そんな気安い呼び方するなんて……あなたはもしかしてオリヴァー様の恋人なんですか!?」
「はいぃぃ!?」

 ……どこをどうしたらどーしてそうなるんだろうか?

「ち、違うわよ」
「じゃあ、どうしてオリヴァー様の家から!?」
「あーちょっと依頼を受けて――って、あなた彼のこと見てるならなんか知らない?」

 どうやら、この子はフレデリックさんが好きで、よく見ているらしい。
 なら、彼の周りに起こる怪現象について、原因が分からないまでも、目撃している可能性がある。

「何かって、なんですか?」
「ええと、ね。たとえば彼が『焼き芋食べたい』って言うと、焼き芋がそれこそ山のようにいきなり空から降ってくるとか……。さっきも室内なのに、いきなり大量のじゃがバタが出たし。気になるらしくて調べて欲しいって頼まれたんだけど……」
「気になるって、迷惑してるんですか!?」

 女の子はいきなりあたしに飛びつかんばかりの勢いで尋ねる。その表情はものすごく真剣だ。

「えと、迷惑っていうか……ああ、えと、誰がやってくれてるのかなーってことと、できればもう少し量を加減して欲しい、とか……」
「そうですか。迷惑なんですね……」
「いやだから、どうしてそこで迷惑ってとるかな?」

 女の子は絶望的な表情を浮かべている。
 どういったからくりかは分からないけれど、どうやら珍事件の真相はこの子がやっていることらしい。
 もちろん嫌がらせなんかじゃなくて、フレデリックさんに好意があって――だが。

「と、とりあえず名前教えてくれるかしら?」
「名前……」
「そう。あたしリナって言うの」
「わたし……ロビンっていいます」
「ロビン、ね。まるで男の子の名前みたいね」
「ええ、実は……」

 ロビンが言いかけた途端、ガタンという音がしながら、今まで寝こけていたナーガが立ち上がった。どうやらやっと起きたらしい。
 どうやったらあんなに揺られているのに熟睡できるのか謎である。ってか、あたしよりよっぽど頑丈だ。

「たたた……なんかあちこち痛いわ」
「でしょうね」

 台車の乗り心地はあたしからしてもよくないと思うもの。
 まあ頑丈なナーガだから気にしてないけど。こんなのに気を遣う必要なんて、これっぽっちもないし。

「その理由を問い詰めてもいいのかしら……って、あら?」
「どうしたのよ」
「リナ、あんたなんで魔族と仲良く話してるのよ?」

 ロビンの存在に気づいたナーガは、ロビンを凝視するように数秒見つめてから、くるりと首だけ動かして、爆弾的質問をした。
 理解できずに、「は?」と目が点になる。

「だから魔族」
「誰が?」
「あんたの目の前の子」
「ええええっ!?」

 さらりと言い切るナーガの言葉に、あたしは思わず大声を上げた。
 驚いてロビンを見ると、小さな声で「実はそうなんです……」と呟く。
 ま、まあ、魔族にも変わり者とかいるみたいだし。でも見た目本当に普通の女の子(どちらかというと気弱)で、魔族とは思えない。

「なんで分かるのよ?」
「あんたこそ、なんで分からないのよ?」
「人外魔境と一緒にしないでよ」
「誰が人外魔境よ?」
「ナーガ」
「ああら、いい度胸ね、リナ」
「やる気?」

 ああ、こうやって脱線していくからナーガをつれてくるの嫌だったのよ――と思いつつ、あたしたちはロビンをそっちのけで臨戦態勢に入った。
 じりじりと緊張感が漲る中、ロビンの「お願いですから、言い争いはやめてくださいぃぃっ」という、何故か魔族らしくないセリフに一気にやる気が失せてしまう。

「ロビン……あんた魔族じゃなかったの?」
「そうなんですけど……どうやらわたし、かなり変わり者みたいで、争いとかそういったのが苦手なんですぅ。だから目の前で争うのはやめてくださいぃぃっ!!」
「それって魔族って言えないんじゃ……」

 魔族とは通常生きとし生けるものの天敵――と言われる(はい、そこ! あたしのことだって言わないように!!)くらいだし、魔族にとっては人間の正の感情は苦手なはず。
 それなのに、魔族から『争い反対』なんて言われる日が来ようとは――なんとなく全身総毛立つような感覚に襲われるても仕方ないだろう。

「それはそうなんですけど、どうしても争いとか憎しみとかってのが苦手で。でもやっぱり魔族なんで、正の感情も苦手なんですけど……」
「え? じゃあ、どっちも駄目ってこと?」

 なんか、それはそれでものすごく大変という言葉では済まされないような気がするんだけど。
 こうなると精神世界アストラルサイドにでもこもってるしかないんじゃないの? などと思っていると、ロビンが違いますーとちょっと間の抜けた声で訂正する。

「いえ、苦手って言ってもどちらも違った苦手なんです。負の感情はとにかく苦手っていうか嫌いで。正の感情は好きといえば好きなんです。でもわたしはやっぱり魔族なんで、そういった感情に触れるたびに自分の存在が削られていくんです」
「なるほど」

 本当に変わった魔族である。ちょっとだけ魔族に関して見方が変わったぞ。

「で、ロビンのことは分かったわ。じゃあ、どうしてフレデリックさんにあんなことをしてるの?」
「う……やっぱり迷惑だったんですね……」
「あ、だからそうじゃなくて! もちろんとってもいいことをしてると思うわ! ただフレデリックさんは理由を知りたいって。って、ほらナーガ! あんたもなんか言ってよ!!」
「なんかって……わたしが知るわけないでしょう? 焼き芋をたくさん食べた後から記憶が飛んでるのよ。って、リナ、わたしにいったい何したのよ!?」
「だから、あんたが満腹になったら勝手に寝こけたんでしょうが! しかも人のひざの上で!! あたしはその間にきちんと依頼を――」
「ふーん。依頼、ねぇ」

 ぎくっ、すっごいまずい気が……。

「わたしに助力を求めるなら、それ相応の報酬ってものがあるんでしょうねぇ、リナ?」
「う……いいわ」
「やった♪」
「もう頼まないから」
「いやんっ! 見捨てないで、リナちゃん!!」
「報酬独り占めしたいしー」
「夕飯だけでいいから!!」
「ほほう? 夕飯だけでいいのね? どんな夕飯でも」
「……く……いいわ……」

 どうやらあまり手持ちがないらしく、ナーガのほうから妥協案を出してきた。
 もちろんあたしとしてはもう犯人はわかっっているし、ナーガの手を借りなくても大丈夫そうな気がするんだけど、関わってしまった以上、ナーガを排除するのは難しい。
 となれば、いかにその被害を少なくするか――ということになるのだ。
 一応なんとか夕飯だけということを約束させたんで、後はその時にいかに少なくさせるかが課題になるが、まずはロビンのほうが先だ。

「話が脱線して悪かったわね。ロビン」
「いえ」
「で、彼は迷惑をしているわけじゃないの。ただお礼を言いたいだけなのよ」

 魔族相手ににこやかやにってのは、なんか変な気がするけど、フレデリックさんのところにロビンを連れて行かなければ、依頼を果たしたと言えない。
 でも、相手は魔族。無理に連れて行こうとすれば、どんな行動をするか分からない。なるべく穏やかな口調で話す。

「駄目ですぅ! そんな、お礼なんて言われたら、わたし滅んじゃいますっ!!」
「え!?」
「先ほど言ったように、わたしは魔族なんでそういった正の感情は駄目なんです。本当は今も自分の存在を削っているようなものなんです……」
「あ……」

 そっか。魔族は負の感情はちょっとした食事になるけど、正の感情を感じるってはその存在を削っているようなものらしい。
 もちろん微々たるもんだろうけど、ロビンのように好意のほうが好きっていう変わった魔族はちまちまダメージを受け続けることになる。
 今もフレデリックさんに向けているロビン自身の感情が、ロビンの存在を削っているという。その上、お礼など好意的に言われたら、ロビンの存在自体が危うくなる。
 でも、それじゃあ依頼は果たせないし、そうしてフレデリックさんに気づかれないまま、力を使い果たして消えていくのは悲しいような気がする。

「でも、本当にそれでいいの?」
「え?」
「フレデリックさんのこと、好きなんでしょ?」
「はい……。オリヴァー様はとっても優しい方で。わたしがちょっと鳥になっていた時に、間違って罠にかかって捕まってしまったところ、そこから逃がしてくれて」

 赤く染まった頬に手を当てて、恥ずかしげに言うロビンはどう見ても魔族には見えないのよねえ。
 ついでに言うなら、鳥になって罠にはまって逃げられないって……本当に魔族なの!? とツッコミを入れたくなる。
 それにしても、依頼料のためにはロビンを説得して、フレデリックさんのところに連れて行かなければならないんだけど。
 ナーガのほうは面白くないのか、いまだあくびをして遠くを見ている。ちっ、使えないヤツ。

「オリヴァー様のために何でもしてあげたい――そう思って、オリヴァー様が欲しいと言ったものをそっと出してるんですけど……」
「あれがそっとかい!?」
「何か間違いでもありますか? わたし姿見せてないですし」
「いやまあ……、ある意味間違ってないけど」

 つ……疲れる。なんていうか……こういう魔族って本当に初めてだし、人間にしたってここまで健気な子って少ないような気がするんだけど。
 魔族やめて人間になりませんかー、と勧誘したいくらいだ。

「ま、わたしは人の恋路に関してどーのって言いたくはないけど……でもロビンだったかしら?」
「はい」
「そのままだと、あなたの存在はその人に知られることなく、力を使い切って人知れず消えていくだけよ。それでもいいわけ?」
「それは……」

 ナーガの言葉にゆれるロビン。
 それにしても珍しくまともなことを言ってるな、と感心したんだけど、やはりそれだけで終わらないのがナーガだ。
「わたしだったら名乗って、相手にお礼言わせてから反対に今までのお礼をもらって――」
「はいはい、そこまで。炸弾陣ディル・ブランド

 ナーガの妄想に走りそうだったので、あたしはナーガをさくっと『炸弾陣』で吹っ飛ばした。
 少し離れたところでどべしっとかっこ悪く着地して目を回しているナーガを横目に、あたしはもう一度ロビンに尋ねる。早くしないとナーガが復活してしまう。

「で、どうする? あたしはフレデリックさんに、あの怪現象の原因を突き止めて欲しいって言われてるから、あなたを連れて行かないと困るんだけど」

 もう一度聞いて、ロビンが首を縦に振らないのなら、それはもう仕方ない。
 フレデリックさんには事情を説明して分かってもらうか、もしくは依頼は断るしかないけど。

「わたし……やっぱりオリヴァー様に直接会いたいです」

 やっと結論を出したロビンの表情を見て、あたしは静かに「分かったわ」と返した。

 

 ***

 

 ――忘れられない魔族がいる。

「どうした?」
「ガウリイ……」
「ずっと外をぼーっとして見てるからさ」
「ん。鳥を見てたらある人を思い出しちゃってね」
「そうか」

 あたしの表情がしんみりしてたのか、ガウリイはあたしの頭に手を置いて軽く撫でた。
 こういう仕草は自称保護者の時と変わらない。

 ――忘れられない『ひと』がいる。

 ロビンはもう魔族という枠を超えていたような気がする。
 あの子が願ったのはひたすら好きな人の幸せで。
 そして、最後の存在をも人の好意の感情を受け取って消えていった。
 あの時すでに、取り返しのつかないほど、ロビンの存在は希薄だったらしい。
 ナーガにすると、せめて自分の存在を相手に知ってもらってから消えろ、という意味だったらしい。
 姿を見せれば、少しでも覚えていてもらえるから、と。

「いったいどうしたんだ?」
「んー、命を賭けるほどの恋ってのを見たことあるんだけど、あの時はちゃんと理解できなかったけど――今なら分かるかな、って」
「ふーん」
「ふーん、って……んな簡単に……」
「いや、リナも大人に……待て! その光はなんだ!?」
「うっさい! 人がしみじみとしてるってのに!!」

 手のひらに収束している光を見て、ガウリイが慌てて止めようとする。ぐいっと引っ張られて、ガウリイの胸にぽすんっと体が入り込む。

「……っ!」
「なあ、分かったってことは、オレのこと、それだけ想ってくれてるって自惚れてもいいか?」
「勝手にすれば!!」
「じゃあ勝手にする。でも……」

 ガウリイは半分納得したように、そして半分は何か言いたげに、抱きしめる腕に力をこめた。

「何よ?」
「嬉しいと思うけど、嫌でもあるかな、と」
「どうしてよ?」
「お前さんが、ただそう思ってくれるだけの女性ひとだったらなんの問題もないんだけどな。でもお前さんはそれを本当に実行してしまいそうだから……」

 そう言いながら、ガウリイはあたしを抱きしめる腕に力をこめる。
 ここまで来ると痛いくらいなんだけど、それよりもガウリイの言ったことに対して否定できず、うっと軽くうめいた。
 そりゃ、ねえ、ガウリイに対してそういう気持ちを自覚する前だって、世界と天秤にかけてガウリイのほうを選んじゃったという妙な実績もあることだし。
 でも、あたしは多分、童話の人魚姫やロビンと違う。

「言っとくけど、あたしは悲観的なことを考えながら命なんて賭けないからね」
「リナ?」
「『二兎追うものは一兎も得ず』って言うけど、あたしはどっちも取ってやるわよ。いい、ガウリイ。あたしは危険なときに自分の命を賭けるときもあるけど、いつだって勝って生き残ることしか考えてないんだから」
「リナらしいな」
「当たり前!」

 鼻息荒く言い切ると、ガウリイはそんなあたしを見て苦笑いをする。
 それでも今まであたしを抱きしめていた力が緩くなった。
 ガウリイが安心した証拠。
 あたしはガウリイの胸にこてんと頭を預けながら、人魚姫とロビンのことを考える。

 命を賭ける恋をして、愛する人のために散っていった命。
 けれどあたしは、二人のようにならない。
 二人とは違う物語を、あたしはガウリイと一緒に作ってみせるから。

 

 

なんか、だんだん何がなんだか分からなくなったり。
ええと、まずリナとナーガのやり取りを書きたかった…というのが元かな。
でも最後には結局ガウリナになってた。

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