郷里で

 サイラーグでの出来事の後、あたしたちはガウリイの提案通りにゼフィーリアに向かった。
 旅はおおむね順調で特に変な事件に巻き込まれることもなく、あたしたちにしては珍しく予定通りの行程だった。
 そして――

「ただいまー」

 あたしは思い切り家の扉を開いた。

「あら、お帰り、リナ」
「ね、姉ちゃん……た、ただいま、です……」

 一番最初に顔を合わせたのは姉ちゃんだった。
 姉ちゃんは優しく――いや、優しさより厳しさのほうが多いかったため、思わず顔が引きつってしまう。

「そちらが――」
「あたしの旅の相棒――ガウリイよ」
「ガウリイです。初めまして」
「初めまして。私はリナの姉でルナよ」

 姉ちゃんとガウリイは気軽に挨拶を交わしている。
 するとそこに父ちゃんがやってきた。

「お、リナ。帰ったか!?」
「ただいま、父ちゃん!」

 父ちゃんに近寄ると父ちゃんはあたしを抱き上げて、「久しぶりだなぁ。でも、余り大きくなってないなぁ」とちょっと失礼なことを言う。
 うん、父ちゃんも変わってない。正直、この年になっても抱き上げられると思わなかった。

「で、そっちが――」
「ガウリイよ。一緒に旅をしていたの」
「へぇ……」

 なんか、父ちゃんの目がキラリと光った気がした。
 が、ガウリイは気にせずに笑顔で手を出し――

「あの、初めまして――」

「誰が初めましてだ! こんの、ボケぇぇぇぇええっっ!!!」

 父ちゃんがガウリイにラリアットを食らわせた。
 さすがにあたしも目が点になって、「と、父ちゃん!?」と声が漏れる。

「ったく、前に会ったことがあるだろうが!」

 父ちゃんは仁王立ちして倒れたガウリイを見下ろす。

「え、父ちゃん、ガウリイと面識あり?」
「ああ、一度だけだけどな。数年前に会ったことがある」
「そうだっけ??」

 ガウリイは相変わらずとぼけた表情で周囲にはてなマークを飛ばしていた。

「おーまーえーなー、火のついてないタバコを咥えて、釣り竿持った男なんてそう忘れんだろうが! しかも悩み事まで聞いてやって!」
「そうだったかぁ?」

 父ちゃんの話によると、あたしと会う前にガウリイと出会っているようだ。
 それにしてもガウリイに悩みなんてあったんだ。そこに驚いた。
 でも――

「あー……父ちゃん」
「なんだ、リナ?」
「多分、それくらいだとガウリイの脳みそには残らないと思う」

 キャラの濃さで言えば、あたしと旅をしている間に出会った奴らはすごかった、の一言に尽きる。
 ガウリイもあらぬ方向を見て何かを思い出そうとしているようだ。
 しばらくして。

「――そういえば、濃いヤツいたなぁ。あの、キメラになった奴。名前は――」
「ゼルでしょ」
「そうそう! あと、ミイラ男とか」
「ゼルの部下のゾルフでしょ」
「剣持って勝負しろって、追いかけまわしてくるヤツもいたなぁ」
「ザングルスね」
「変な魔族もいたよな。リナがゴキブリ神官とか言ってた――」
「ゼロスでしょ。どうしてゴキブリ神官で覚えるかな?」
「でっかいトカゲの……」
「ミルガズィアさんね。ガウリイにしては意外と覚えてるわね」
「他にも……」

「あー……もう、いい」

 父ちゃんがうんざりした表情で、右手を上げてストップをかけた。

「いいのか? 他にももっといた気がするんだが……」
「そうねぇ。濃いって言えば、見た目は普通でもアメリアなんかも濃かったわねー」
「いや、だからもういいって」

 父ちゃんはちょっとしょんぼりした表情になって。

「俺よりも記憶が新しくて、それだけ濃いやつらに出会っているのに名前を忘れるなんて……それじゃあ、俺なんてかすんじまっても仕方ないな……」
「あー……」

 確かに、父ちゃんの性格は一癖あるかもしれないけど、その後に会った奴らは濃度1.5~2倍くらい濃いからなぁ。
 しかも相手はガウリイだし。
 思わず、父ちゃんの背中を「まぁまぁ」とばかりに叩いた。
 ガウリイも「よくわからんがすまん」とボケた謝罪をしていた。

 

 ***

 

「なぁ、リナ」
「ん、なに、父ちゃん」
「ほんっとーに、アレでいいのか?」
「アレでいいのかって?」

 今は夜。部屋に居ると父ちゃんが訊ねてきて、旅に出ていた時の話をかいつまんで話していたんだけど、終わりかけた頃に問いかけられた。

「お前、アイツに惚れてるだろ?」
「……ぐっ!?」

 直球で聞かれて、摘まんでいたお菓子を思わず飲み込んでしまい息苦しい。
 胸をトントンと叩いてから葡萄ジュースを飲んで無理やり胃まで流し込んだ。

「父ちゃん……いきなり何を……」
「俺はな、あいつの思い悩んでいた頃をちょっとだけだけど見てるのさ。まあ、今はそんなの微塵も感じさせないがな」
「……」
「あいつの過去、聞いたことがあるか?」
「うーん……特にないかな」
「聞きたいと思うか?」

 父ちゃんが珍しく真剣な表情で訊ねてくる。
 あたしはほんの少し考えた後。

「うーん。別にいいかな」
「いいのか?」
「ガウリイが話したければ話せばいい。でも、無理やり訊こうと思わないの。だって、大事なのは過去じゃなくて、現在いま、未来だから――」

 あたしはいつも前を向いていたい。
 ガウリイの過去も気にならないわけじゃないけど、本人が話したがらないのに詮索するのは気が引ける。
 大事なのは、今そばに居て、そして頼りになるかどうか――だから。
 父ちゃんにそう告げると、父ちゃんは破顔してあたしの頭をクシャクシャと撫でる。

「リナも大人になったな」
「……このやり取りは大人になった人間に対する対応じゃないと思う」
「ま、俺はいつまでも親だからな。子供扱いもするさ」
「そう言われると……」
「でもな、そうやって相手との適度な距離感を見つけるのは簡単そうで難しい。特に好きだのなんだのと感情が絡むと更にな」
「そっかな?」
「ああ。旅をしてきたのは無駄じゃなかったな。ゼフィーリアでは学べないことが沢山あっただろう。まぁ、お疲れさん」

 あたしは父ちゃんの大人だというのに子供扱いに何となくむず痒い気持ちになった。
 でも、悪い気はしなかった。
 十五の時に姉ちゃんから「外を見てこい」と家を出されて、最初はちょっと寂しかったりもした。でも、後から後からいろんな人に出会って、気づいたら旅をするのが楽しくなっていた。
 そんな中、あたしはガウリイと出会った。
 ま、最初はちょっとイラッとするにーちゃんだなー、って思ってたけど、まさかこんなに長く一緒に居ることになるとは思わなかったわね。

 そして今日は、これからも一緒に居るためにガウリイがあたしの家族に挨拶をしてくれた。
 きっと、最後まで一緒に歩いて行ける唯一の人なんだろうな、と改めて思った。

 

 

移転前のメモで書いたものに加筆しました。
タイトルは何のひねりもありません。というか、タイトル決まらんかった。
最初は「濃ゆい人(?)たち」でした。
だけど、リナとリナ父との会話の方が多くなったので濃ゆい人たちはちょっと違うかな?と思いました。

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