朝、窓から差し込む光がまぶしくて目を覚ました。
最近晴天が続いていて、こうして朝日のおかげで早起きするのが多い。今日もそんないつもの朝だと思っていた。
瞼を上げるまでは――
目を開けて、一番最初に入ったものを見て言葉を失う。
ううん、違う。叫びそうになったのを、必死で口を押さえて飲み込んだ。
それだけびっくりした。だって、目の前には同じベッドに気持ちよく眠るガウリイの姿があったから。
「なななな、なんで!?」
信じられない、と頬をつねっても痛くて夢ではなさそうだし、更に信じられないことに、起き上がってみるとガウリイもあたしも何も着てない状態で――血の気が引くとはまさにこのことかもしれない。まるでさーっと音を立てて頭から血がなくなっていく感じ。
――ももも、もしかして、こりはガウリイとイタしましたということ!?
慌てて思考を昨日に戻すけれど、別に変なことをしてないような気がする。普通に宿を取って、ご飯食べて、でもって、ガウリイの部屋にワインを持って乱入して。
普段なら、ある程度遅い時間になるとガウリイのほうが「もう夜も遅いから帰れ」と諭して、あたしは自分の部屋に戻って寝るというのがいつものことだったんだけど。
でも、今あたしは、ガウリイの部屋にいて、しかもガウリイと一緒に寝ていて、しかも裸で――そろそろ頭が思考停止を訴えかけた時だった。
「んー……、さむ……」
ガウリイの寝言が聞こえ、めくられた毛布のところが寒いのか、毛布を探す手つきをする。
あたしは慌てて、ベッドから飛び降りて、ガウリイを毛布で包むと、自分の部屋に一目散に逃げ去った。
――駄目! ガウリイが忘れてても、何にもなかったような顔して旅なんてできない――!!
あたしは震える手を何とかしながら、服を着て荷物をまとめると、一目散で留まった宿から逃げ出した。
これが、あたしの逃亡生活(?)の始まりだった。
あたしはひたすら翔封界で飛んで、問題の町から遠ざかる。もう限界だ、と感じたのは日が頭上近くになった頃。息を切らしながら森の中に降り立った。
何しろ相手があのガウリイだから、モタモタしていると、お得意のカンとやらで見つかってしまう可能性が高い。それでなくても、あたしの趣味をカンでとことん邪魔してくれる男だ。
少しでも早く遠くに行かなければ――!
気は焦るものの、体力のほうが限界だった。
考えてみれば、口に物を入れたのは昨夜が最後。朝目覚めてから今まで、水さえも口に入れていない。喉もカラカラの状態だ。
幸い降りたすぐ近くで、僅かながら流れる清水を見つけ、それで喉を潤す。一息ついてから、何か食べられるものを持っていないか、荷物の中を漁りだした。がさごそと探してみるけれど、それらしいものは見つからず、あたしは荷物を取り出してから確認し始めた。
そして、はたと気づく。
やばいっ! 食べ物どころか、財布もないっ!?
荷物を全部出して、袋を引っくり返してみるけれど、出てくるものはない。その前に出したのだって、魔道関係の道具とか、着替えとか、そういったものしか見つからない。
もしかして、あたしの部屋に泥棒でも入ったのかと思ったけれど、昨夜のことを思い出して、財布はガウリイの部屋に置いたことに気づいた。
昨日は仕事が終わり、依頼料が入ったことと、宿の鍵がちゃちかったので、ガウリイの部屋で飲む時に、念のためにと持っていったのを思い出す。
いつもそんなことをしないくせに、今回に限って念には念を入れたらこの始末。あたしは自分の愚かさを悔いた。
しかし食べるものがないと分かると、途端にお腹が空くもので、先ほどにも増して胃は空腹を訴えていた。
こうなれば奥の手しかない。
町に行ったら宝石護符を売る。身に着けている宝石護符は確かにお金になる。一つ売っても、一ヶ月くらいは充分食べていけるだろう。身を守るものがなくなるのは寂しいが、餓死してしまったら意味がない。
ああでも、今身に付けている物は思い入れもあるし、あとで、それと同じものを購入することはできない。うーん……やっぱり売るのは最後の手段にしたい。仕方なく、あたしは食べ物が何かないかと、森の中を彷徨いだした。
一時間くらい彷徨って、食べられそうなものは木の実くらいだった。
とにかくなんでもいい! そう思ってそれを口にすると、やたら酸味が強くてとても食べられたものではなかった。口に広がる酸っぱい味に顔をしかめつつ、また歩き出すと、幸いにも盗賊団のアジトを見つけた。思わず顔がにやけるのが分かった。
「火炎球!!」
どごおおおんんっ!!
「ほらほらほらっ死にたくなかったら、さっさと降参しなさいっ!」
あたしは二つ目の火炎球を手のひらで輝かせながら、盗賊たちに向かって叫んだ。
「ひえええっドラマタだあああっ!!」
「ひいいぃぃっお助けををっ!!」
火炎球で少し黒くなった盗賊さんたちが口々に命乞いをする。
アジトの周りの壁は木造りで、先ほどの火炎球で火の粉を上げながら燃え盛っている。あんな風にされちゃあたまらない、といった心境だろうか。
どちらにしろ話が早くていいわ。思わず口端を吊り上げて笑みを浮かべる。
「さあ、命が惜しかったら食いもん出しなさいっ!!」
「………………え? お宝……じゃなくて?」
少しの間のあと、盗賊Aが恐る恐るあたしに尋ねる。
――はっ! そういえば、あまりの空腹に、『お宝』じゃなくて、『食い物』を出せと叫んでしまったーーっ!!
「いっ、いいから食い物とお宝全部出すのよっ!!」
ちょっぴり恥ずかしくなって、それを隠すかのようにあたしは怖い顔で睨み、今度は『食い物』と『お宝』の両方をせびった。
盗賊たちはあたしの形相に驚き、泣きながら(大の男が情けない)食べ物とお宝を差し出すと、蜘蛛の子を散らすように四方に逃げていった。
あたしは人がいなくなったのを確認して、燃え盛る炎の中、手に入れた食料を口に放り込むのに専念した。
***
あれから数日経った。
やっと気持ちも落ち着いてきたけど、金髪の長身の人を見るとギクリとする。
なんせ、この町の魔道士協会で聞いた話によると、金髪の剣士があたしを探して歩いているというのだ。しかも隣町でそんな噂を聞いたと。
「キミ、何やったんだい?」と噂を教えてくれた男がなれなれしく聞いてくる。
「うっさいわね、別に何もしてないわよ」
されたのは、きっとあたしのほうよ――そう言いたいのを飲み込んで、これ以上この男から話が聞けそうになかったため、魔道士協会をあとにしようとした。
「なあ、そのかわいい顔でその男を騙したのかな?」
「……」
「キミみたいなかわいい子なら騙されてもいいなって思うけど、必死で探すくらいだから、相手の男はかなり入れ込んでるみたいだなぁ」
「……あんたには関係ないでしょ。あたしそういう話する気ないの。あっち行ってくれる?」
いい加減うざい。不機嫌な顔で男を睨みつけると、「怒った顔もかわいいねぇ」と言う。どうやら人の話を聞く気がないらしい。バカバカしくなって男とは反対の方向へと足を向ける。
それにしてもガウリイのヤツくらげの癖に頭を使ったらしく、あたしを探すのに名前を出してないらしい。容姿を説明しながら人を探していると言っているのだ。
これがあたしの名前なら、噂に恐れをなして関わらない人が多そうだけれど、若い男が急に消えてしまった少女を探しているというと、みんな面白がって情報を出してしまうのだ。きっとあたしたちの関係を想像しながら。
この男もそうだった。
「なあ、その男を捨てたんなら、今度は俺はどう? 俺、ちゃんと引き際を心得てるから、遊ぶ相手にはちょうどいいぜ」
と、こういう勘違いをしているのである。
だいたいあっちに行けと言っているのに、それでもしつこく言ってくる男のどこが引き際がいいんだか。『引き際』という単語の意味を調べろと、顔に辞書を叩き付けたい気分だ。
それにしてもガウリイと離れてから、こういった男が出てきて思わぬ時間を取ってしまい、思ったより順調に(?)ガウリイから離れることができない。
ヒタヒタと、ガウリイの足音が後ろから聞こえてきそうで怖い。
「なあ……」
「あーもう、うっさいってば! あたしを探している男とあたしがどういう関係かなんて、あんたに関係ないでしょっ!?」
「あるさ」
「ないわね」
「ある。俺あんたのこと気に入ったからな」
ニヤリと口端を上げた男は、まるであたしをエモノか何かに見えているようだ。目つきがいやらしくて嫌悪感を抱く。
考えてみれば、あたしももういい年だし、美少女だった豪語するだけあって顔はいい。ナンパされるのだって当然っていえば当然なんだけど……でも今までこんな面倒なことなかったのになあ。どうしてよ?
「あたしはあんたみたいなしつこい男は嫌いよ」
面倒くさそうに答えるが、男のほうは諦めるという言葉を本当に知らないらしい。
「つれないなあ。でも気の強い女は好きだぜ。落とし甲斐があるってもんだ」
「ただ気の強い女がいいなら、その辺の女にしておきなさい。人には分相応ってものがあるのよ」
あーもう! しつこいしつこいしつこいーーっ!!
見たところたいした魔道士じゃなさそうだし、こんなのが側にいたら戦闘になった時に邪魔じゃないの。女のことばかりで、頭もよさそうには見えないし。
もうひたすら無視して歩こうと決意すると、男があたしの肩に手をかけた。
「あんたそんなお嬢様だってのかい? それともじゃじゃ馬過ぎて俺には御せないって言うのかな?」
「そうね、強いて言うなら後者よ」
「女の扱いはうまいもんだぜ?」
「普通の女ならね。あいにく、あんたじゃあたしに言うことをきかせるなんて、できないわね」
男の手をパシッと払い、睨みつける。
これ以上うるさいことを言うのなら、氷の矢あたりで凍らせてしまおう。そうすれば頭に上った血も下がるだろうし。うん、そう決めた。
なおも言い募る男を無視して、あたしは小声で呪文を唱え始める。男はぶつぶつ言っているのを聞いて、耳を近づけようとしたその時――
「リナッ!」
突然名を呼ばれ、詠唱を中断して声のほうを見る。
そこには当然のごとく、あの日置き去りにしたガウリイが立っていた。
「そいつから手を放せ!」
走ってきたのだろうか、少し息を切らせながらいつもと違う怖い顔をして怒鳴りつけている。
こんな表情のガウリイを見るのは珍しい――というより、命を懸けるくらいのことがなければこんな顔、めったにしないのに。
あたしの手を掴んでいる男はそんなことを知らないため、うわさの男が現れて怒っている、としか見ていないようだ。驚いたもののそれだけだ。まだあたしの手を放さないでいる。
馬鹿な男、こんなガウリイを相手にできると思っているのかしら? あたしだって本気を出したガウリイに勝つ自信はない。遠距離からの呪文でなら勝機はあるかもしれないけど、接近戦に持ち込まれたらおしまいだ。
――ということなんで、できればこの手を放してほしいんだけどねっ!
いまだに握られている腕を恨めしく思いながら、相手の男を睨みつける。
が、この男、どうも自分に都合のいいように考えるようだ。
「なに? そんなにこの男に近づいてほしくない? だってさ、あんたも、フラれたら素直に諦めたらどう? 彼女、こんなに嫌がっているぜ」
と、きたもんだ。
この楽天的な性格を少し見習いたいものだ。そうすればこんな風に逃げ――と、ここまできて、なんでガウリイから逃げていたのかを思い出した。
…………………ものすごくヤバイ。
ぜったいこの男はすぐにブチのめされて、そしてあたしは捕まってしまう。
そしたら、あの夜のことを聞いてくるに違いない。
だけどあの夜の記憶はすっとんでいて、なんてであんなことになったのか分からない。なんていっていいのか、どうリアクションすればいいのか分からないのよっ!!
ええい、こうなったら――
「炸裂陣!」
ブツブツと小声で呪文を唱えたあと、力ある言葉とともにあいている手を思い切り振り下ろし、硬くなった地面が呪文によって無理やり上へと吹き上げる。それに驚いた男が手を放すのと同時に、新たな呪文を唱えて。
「明かり!」
こっちはガウリイ対策。さっきの『炸裂陣』はあまり広範囲じゃないので、ガウリイのところはあまり影響がない。なにより、これくらいでなんとかなるようなヤツじゃない。
案の定というか、この手も察していたのか、ガウリイはためらいなく向かってくるのがまぶしい中、かすかに見えた。
そっか、突っ込んでいく先にいるのが敵なら危険だけど、相手はあたし。命のやり取りをするわけじゃないから、突っ込んでくることができるんだ。
くう、妙に頭使いやがってぇ。
なんにしろ、捕まるわけにはいかない。慌てて『翔風界』で飛び立つ。
あー、でももう『明かり』の効力が切れてる。『黒霧炎』とかで暗幕のほうがよかったかも。でも、あれっていつもアメリアが使っていて、あたし、使わないし。とっさに思いつく呪文じゃないのよね、アレ。
今更ごちゃごちゃ言っても仕方ない。とにかく後を追いかけてくるガウリイをまくしかない。
一度高く上って、身を隠せそうなところを探す。けど、町の中じゃ、すぐに見つかってしまう。もう少し広範囲で見ると、西に森とまではいかないけど、木がある程度ある。そしてその先はすぐに町。
迷っている暇はない。一度森に身を隠してガウリイをやり過ごすのもよし。そのまま次の町へ行ってもよし。ガウリイにはすぐ近くに町があることも分からないだろうから。
とにかく逃げるっ!
***
結局、森は小さく身を隠すのには安心といえる大きさではなかった。
それでなくてもガウリイの野生のカンは侮れない。こんなところで捕まったら自然破壊にいそしむ羽目になってしまいそうだ。(いや、いつもやってるじゃないか、っていうツッコミはなしで)
それにお腹もすいたんで、木が茂っていて下から見えなさそうなところを選びながら飛んで、なんとか隣の町(?)にたどり着いた。
そこにガウリイの姿はなく、少しほっとする。
その後、あたしはめぼしい食堂を見つけてそこに入った。気づいてみれば、もう昼じゃないか。あのしつこい男のせいでずいぶん時間を浪費したわ。
ガウリイにも追いつかれるし……と頬杖をついて料理がくるのを待っていると、バタンっと思い切り入り口の扉が開かれる。
恐る恐る振り返れば――
「見つけたぞ、リナ!」
やっぱりガウリイだった。
コイツの野生のカンは本当に怖いわ。
「……」
なんて答えていいのか分からなくて、あたしはガウリイを見ただけだった。
その間もジリジリと後ろへと後ずさる。ガウリイが一歩を踏み出したときが勝負だ。じっとガウリイを見て間合いを取る。
お店の姉ちゃんが「お待たせしましたー」と言ったのが合図だった。ガウリイが一歩踏み出し、あたしはガウリイに『魔風』を放ち、すぐさま裏口に向かって走った。
「リナッ!!」
ガウリイが叫ぶけど、そんなので立ち止まるわけないじゃない。
それくらいならこんなに逃げな――って、どうしてあたし、こんなに逃げてるのかしら? えーと……走りながら考える。
そう、逃げた日の朝、ものすごーくショックだったからだ。
なんでショックだった?
当たり前だ、ガウリイと一緒に全裸で寝ていたから。
だから逃げる?
当たり前じゃない、恥ずかしいったらありゃしないわ。しかも記憶がないなんて!
恥ずかしい? あたしは恥ずかしい。
なら、ガウリイは? ガウリイはあの日のことを覚えてる? なんでこんなに追いかける?
「どうして、そんなに追いかけるのよぉっ!?」
疑問から、背後を追いかけてくるガウリイに問いかける。
それにしてもご飯食べてない状態で走るのはキツイわ。ぜーはーと息を切らしながら後ろを振り向くと、すぐ近くまでガウリイが来ていた。
慌てて、もう一度『魔風』でガウリイを吹き飛ばし、距離をとる。
「当たり前だろ! 急にいなくなったら気になるじゃないかっ!!」
でも、ガウリイはすぐさま体勢を整えてまた追いかけ始める。
「別に一緒に旅する理由が必要ないんなら、一緒にいる理由だって必要ないじゃない!」
「そりゃそうだが、だからって急にいなくなることもないだろう!?」
「急にって……だって、あんなことになってるから、あたしは――」
そもそもなんであんな展開になったのよー!? と心の底から叫びたい。
いつもどおりガウリイの部屋にいって、仕事の話とたまたまお酒があったからもらって飲んで――確かに美味しくてハイペースで飲んだのは覚えてる。
だからといって、あんな展開になるなんて誰が思うのよ!?
「なんであんなことになったのよーーーっ!?」
叫びながら、人をよけて走る。こういうとき、小さいと小回りが効いていいんだけど、なにより歩幅がぜんぜん違う。すぐに追いつかれそうになって、慌てて角を曲がって方向を変える。
手を伸ばしかけていたガウリイは、すぐに方向を変えることができず、数歩進んで慌てて軌道修正をする。少しだけまた距離が保てたけど、これもいつまでもつのか分からない。
「だってリナが……っ」
「なによ!?」
「リナが言ってくれたんじゃないか!」
「だからなにを、よ!?」
歯切れの悪いガウリイにサイド問いかける。
しっかし、走りながらってのはキツイわ。もうヤダ、この問答をしたらさくっと終わりにしてや――
「好き、だって!!」
「……………………………………は?」
ガウリイの答えに、思わず目が点になり、走る速度が落ちる。
そこですかさずガウリイに腕をとられた。
「リナが、オレのこと、好き、だって……言った……から……」
少しばかり息を切らせているガウリイ。体力バカのガウリイが息を切らせるなんて珍しい。
――なんて、ことより!
「あたしそんなこと言った!?」
「言った!」
「しっ知らないわよ!!」
「知らない、じゃない。ちゃんと言った!」
「し……」
「オレも、ちゃんと答えた!」
「え?」
「リナが好きだって!!」
信じられなくて、久しぶりにガウリイの顔をじっと見た。
「うそ……」
「嘘なんかじゃない! オレすごく嬉しくて、だから酔っているのは分かっていたけど、でもこういうのは勢いも必要なときもあるし……だから、オレ、次の日にちゃんともう一度言えばいいと思って――」
あれこれ言い訳をするガウリイに、あたしはもうなんて答えていいのか分からなかった。
だって、あたしよりよっぽど大人で、そういうことに対しても平気そうなガウリイが、よ。酔っているけどとか、勢いが必要だから、なんてそんな余裕がないようなことを言うの?
誰が信じるっていうのよ?
「しっ信じられないっ!」
すぐさま否定すると、ガウリイは。
「信じられないなんて、一言で済ませるなよ! オレがどれだけ悩んで手ぇ出したと思ってるんだ!」
「ちょ、悩むくらいなら出すな!」
「出すに決まってるだろ! ずっと、待ってたんだから!!」
「待っていたっていつからよっ!?」
「そんなの知るか! 気づいたら好きだったんだ! でも下手に言ったら一緒にいることもできなくなるって思って、リナの気持ちが分かるまで――って、ずっと我慢して待ってたんだあああぁっ!!」
最後のほうはもう絶叫で。
そんなのを町中で叫べばどうなるか分かるわけで。
このときになって、恐る恐る周囲を見ると、すでにあたし達を中心に人の山ができていた。
ガウリイの思い切りのいい(?)告白に、パチパチと拍手する人がいたり、なんだか涙ぐんでいるような人もいる。耳を澄ませば、「あんなかっこいい兄ちゃんでも苦労するんだなぁ」とか「いやあ、なんか行き違いあったみたいだけど両思いみたいだなぁ」とか。
また恥ずかしくなって逃げようとしたけど、ガウリイにがっちりと掴まれた腕は外れていなかった。
逆に逃げようとしたあたしに、ガウリイは問いかけてくる。
「リナは……リナはそんなに逃げるほど、イヤだったのか?」
どこか不安を含んだような、先ほどと違う震えるような小さい声。
うわあ、今になってガウリイの立場にって考えたら、ものすごーくあたしのとった行動ってガウリイを不安にさせていたことに気づいた。
ここで逃げたら、もっと不安にさせちゃう。
恥ずかしい。
でも、逃げちゃ駄目、なんだ。
「あたしも……ガウリイのこと、好き……」
照れくさくて、ガウリイの顔をしっかり見れなくて、俯いて答える。
たぶん、耳まで真っ赤になっていると思うけど、顔は熱が出たときのように熱く感じる。恥ずかしい。本当に恥ずかしい。
でも。
「リナ!!」
がばっと抱きつかれて、ガウリイの体温を感じたら、なんか少しだけほっとした。
たぶん、ガウリイのいつもより早い心臓の音とか、ちょっと汗臭いのとかそういうのが、あたしと同じように焦ったり怖かったり――そんなガウリイの気持ちを感じさせたから。
そっとガウリイの背中に手を伸ばして(正確にはわき腹くらい?)、ガウリイの服を握り締めた。
同時に周りからさらにどっと拍手と歓声が沸きあがった。「いやあ、良かった良かった」「まるで劇みたいだった」など聞こえる。
また恥ずかしくなって、ガウリイに小声で「ここから離れましょ」というと、「お、おう」とガウリイも照れくさいのか、動揺した声が返ってくる。
手を握ったまま移動しようとすると、「兄ちゃんがんばれよ!!」と威勢のいい、おっさんの声が聞こえる。すると今度は、「お嬢ちゃんもいいオトコ捕まえたね!」というおばさんの声。
恥ずかしくなったけど、確かにそうかもしれない――と見上げてガウリイを見ると、同じく恥ずかしそうに顔を赤くしているガウリイと目が合う。
そしてお互い照れくさそうに小さく笑った。
雑記でちまちま書いていたものをまとめました。
はじまりと1まで書いたのかな? あとは勢いに乗ってガガっと。
なんというか、「青春のバカヤロー!!」という感じで。