「どうしたのよ?」
「ん? いや……」
「今変な顔してたわ」
「うーん……なんて言うかなぁ……いや、なんでこうなったんだろうなーって思ってさ」
「はぁ?」
狭いベッドの中で二人して裸で寄り添っているこの状況をふと客観的に考えて、オレって変態なんじゃないだろうか……などと思ったんだ。
何でかというと、オレの腕に頭を乗せてこっちを見ているのは、長年旅の連れだった――オレが『保護者』をしていた少女。
そう、彼女との年齢差は七歳とかなり離れているし、先ほど言ったようにオレは彼女の『保護者』でもあったんだ。
それなのに、オレは彼女を抱いた。
もちろん、そこには彼女への溢れんばかりの気持ちがあるから、成り行きなんかじゃないのは分かってるが……
「あんたってさ。妙に変なとこで律儀だから、また変なことで考えてんでしょ?」
「えと……」
そんなオレの思いにリナも気づいているのか、そんなことを言った。
「あたしは、嫌なものは嫌ってはっきりしてるわ。だから、アンタがどう思っていても、あたしが嫌だったらアンタの思うとおりに動かない。あたしはあたしが望んでこうなったの」
「……分かってるさ」
リナなら自分の思いを曲げることはしないだろう。
かといって、相手の気持ちを知って、悩まないわけではないだろうが……
「初めて会った時、なんて失礼なヤツだと思ったわ。人のこと思いっきり子ども扱いして」
「だって子どもだったから。女子どもは大事にしろってばあちゃんから口をすっぱくして言われてたしなぁ」
「だからってあの態度はないわ。完全に子どもに対しての口ぶりだったもの」
「はは……」
だけど、実際子どもだと思ったんだ。
世の中の怖さを知らない真っ直ぐな子ども。
だから、危なっかしくて側についてなきゃ……って思うようになった。
だけど、それは間違いで…リナはちゃんと自分で考えて動けて、かつ、どんなに大変なことでも諦めない強さを持っていた。
いつからだろう?
そんなリナに惹かれはじめたのは?
実際オレはこんな年の離れた少女に振り回されるハメになるとは露ほどに思わなかった。
だけど、時には命をかけるほどのそれは、オレにとって刺激的で、またリナがどれだけ進めるのか見届けたい気持ちになった。
それが、いつしか『恋』というものに変わり、いつしかリナの側にずっといるのは自分だと浅ましい独占欲に気づいた。
「ねえ、アンタあたしと会う前はどうだったの?」
「どうって……」
「あ、会ってからでもいいわ。ただ、アンタが他の人とこーゆーことしてるって感じはなかったから……もしかして、ずっとご無沙汰だったの?」
「おまえなぁ、もうちょっと言いようってものが……」
はっきり言うリナに苦笑交じりに答える。
そりゃオレだってリナと会う前はそれなりにだったが――気づいてみれば、リナと会ってからは命を賭けるような出来事が多く、そんなのを気にしている暇なかったよなあ。
で、その後はリナへの想いに気づいてほかの女を抱く気はなくなってしまったし……
「だって気になるじゃない」
「あー……まぁ、会う前はそれなりに……かな? リナと会ってからは……いろんなことがあったから……それどころじゃなかったってのが本音かな?」
「ふーん……じゃあ、ホントに久しぶりだったんだ」
「まあ……」
オレの心の葛藤に気づいたリナは、照れ屋でこういうことには慣れていないはずなのに大胆だった。
ある意味、オレに合わせてくれたんだろうか?
これがリナの愛し方なのかもしれない。
「で、ガウリイは今あたしを抱いて後悔してるの? 変な顔してたけど」
ああ、そうか。リナもリナでいろんな思いを抱えてるんだよな。
だから不安になるのかもしれない。
だから聞いてみたかったのかもしれない。
「いや。ただ昔を考えると、こんなにのめりこむなんて思わなかったと思ってさ」
たった一人の女性にこれだけ深い思いを抱けるとは……
「そう。後悔してないならいいわ」
「するわけないだろう?」
「さあ? アンタくらげだからね。どうかなーって思って」
「ひでえなぁ」
「ふんっ」
「それにオレは後悔どころか……」
そう言って、彼女を自分の腕の中に閉じ込めてその唇を味わう。
後悔なんてするわけない。
こんないい女を手に入れて、あまつさえ、その女の成長を見ていけるのだから。
「愛してるよ……」
リナとオレの年齢差は必然だったのかもしれない。
年が近ければ、オレはリナの『保護者』として側にいることはできなかっただろう。
年が近ければ、恋愛対象としてみるのかも知れないが、それよりも先にリナは側にいることを許してはくれなかっただろうから。
そう思うと、オレたちの年齢差は必要だったんだ。
リナを愛するそのために。
二人の年齢が相応な感じだったらどうなっていたのかな…と思うので。
あの年の差がなければ、リナはガウリイの同行を許さなかったのでは…と思っちゃいます。