謎 4 逃げるが勝ち。

「はー食った食った」

 お腹をさすりながら用意してもらった部屋へと戻り、ベッドにぼすんと腰かけた。
 ガウリイは夕食前には戻ってこなかった。アメリアとゼルのツッコミに、ガウリイが何をやっているか気にならないわけじゃない。
 でもガウリイがいないということは、ガウリイの分まで食べられるといこと!
 ってことで、あたしはガウリイの分まで平らげて、満足して部屋に戻ってきたところだった。

「ふうーっ、やっぱりセイルーンはいい料理が多いわー。ガウリイももったいないことしたわよねぇ」

 ブーツを脱いで床に投げ捨てる。苦しいからベルトを取って襟元を開けて、そのままベッドに転がった。
 黙っていると、静かな空気が部屋を満たす。そうなると考えたくないことを考え始めてしまう。

「ガウリイは……どうしてあたしといるのかな?」

 最初は無理やり保護者を買ってでたガウリイ。でもすぐに保護なんか必要ないとわかったはずだ。
 その後は、あたしのほうから光の剣目当てに一緒にいることになった。
 光の剣がなくなった後は、ガウリイの新しい剣を探すという目的に変わり――そして今、理由もなく一緒にいる。
 ガウリイは一緒に旅をするのに理由は要らないって言ったけど、本当にそうなのかな。

 気付いたら、あたし、ガウリイについて知らないことばかりだ。
 なんか……こういうのって考え出すと止まらないなあ。
 あたしはベッドの上をゴロゴロしつついろんなことを考えてたようだ。
 不意に部屋を扉を叩く音が聞こえて起き上がる。
 時間を確認するとかなり経っていたことが分かった。なんかぐだぐだ考えた割に、あまり結論という結論は出なかった。こういうのを不毛って言うんだろうか。
 はあ、とため息をつきつつ、「誰?」と問いかける。するとすっかり馴染んだ声が返ってきた。

「ガウリイ」
「すまん、だいぶ遅くなっちまった」
「今まで何やってたのよ? ……って、うわ、お酒臭っ」

 あたしの気持ちなんてつゆ知らず、ガウリイはいつも通りおおらかな態度で話しかける。

「ちょっと昔の知り合いにあったんだけど、いやーなかなか返してくれなくてなー遅くなっちまったんだ」
「別に盛り上がってるなら帰ってこなくてったいいわよ」
「リナ、どしたんだ?」
「別に」

 なんか、あたし嫌な子だ。気になるくせに楽しそうなガウリイを見ていたくなくて、憎まれ口がこぼれる。
 今まで気にしたことなかったのに、どーして今さらアメリアたちのあんな話でモヤモヤしなきゃいけないのよ。

「んで、こんな時間になんの用?」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあったんだが……でもリナ、本当にどうしたんだ?」
「今日……ちょっとアメリアたちとよく一緒にいるなあって話になって……」
「ん…ー…そうかぁ?」
「だってもう三年以上よ」
「そんなに経つのかぁ。――で、なんだって?」

 ちょっと懐かしそうな目をするガウリイ。そしてそのあとそれがなんだと尋ねる。
 だからそれを答えろというのか!?
 うわー、あの時のやりとりを思い出して顔が熱くなってくるー!

「リナ?」

 うわー、急に覗き込むなっつーの!
 思わず手を出してガウリイを突き飛ばす。

「うわっ!」
「あ、ごめん!」

 ガウリイはよろめいたけど転ぶことはなかった。良かった。

「いったいどうしたんだよ、リナ」
「う……ちょっとアメリア達にからかわれたもんで……今は一人にしておいてちょうだい。明日には元に戻ってるわ」
「あ、ああ」
「ごめん」

 そうよ、一晩寝たらすぐ忘れる。そうすればまたいつもと同じようになる。
 ガウリイもいつもと違うあたしに戸惑いながら、それでもあたしの気持ちを優先してくれた。
 そう、このあとの爆弾発言がなければ。

「そうだ。聞きたいことがあって来たんだ。遅くなっちまったから悪いかなーって思ったんだけど」

 あたしから背を向けて扉のほうへ行こうとしていたガウリイは、ふと足を止めて振り返る。

「な、なに?」
「いや、街でリナにそっくりな人を見たんだ。リナには姉ちゃんがいるって言っていたから、もしかしてこっちに何かの用で来てるのかな、って思って。もしそうだったら、せっかくだから会ってきたほうがいいと思ったんだ」

 は? あたしにそっくりな人?
 でも姉ちゃんはゼフィーリアから出ることはないと思ったんだけど。それに、そんな話も聞いてないし。

「う、ううん。なんにも聞いてない。たぶん姉ちゃんじゃないと思う」
「そっか。そうだよなぁ、あの人ってリナのお姉さんって言うより、リナ本人で通りそうなくらいそっくりだったし」
「そんなに、そっくりだったの?」

 ガウリイが見てそっくりだって思うほどそっくりなのって親戚にいたっけ。
 うーん、と首を傾げていると、ガウリイが追加情報を出す。

「すっごくそっくり。でも雰囲気は全然違ってたな。服装が普通だからかな、って思ったけど、そうじゃないんだ。なんか見てたらものすごく腰が低いし……一緒にいる背が高くて髪の長い女の人もそんな感じだったな。なんか大丈夫か、って言いたくなるくらい弱そうだし、人がよさそうな感じで――リナとは大違いだな。あ、そういえば旅をしてる感じだったけど、リナのような魔導士でも剣士でもないような……。あんなので旅なんて大丈夫なのかなぁ?」

 ガウリイの長々しい説明を聞いていると、ムカっと来るところがあったけど、それ以上に話の内容が恐ろしすぎた。
 ピキッ、とどこかに亀裂が走る。
 あたしにそっくりで、でも普通というより弱そうで、でもって一緒にいる女性も何となく知っているような感じの人で――思いだしてしまった。あたしの暗黒歴史。

影の鏡シャドウ・リフレクター』という忌まわしき名前を。

 そういえば、昔、あたしとナーガから生み出された、あたしたちと性格が正反対――ものすごく平和主義のシャドウたち。あの時は全身に寒イボが立つほどだった。
 あまりに恐ろしい思いをしたせいか、その存在をなかったことにしたくて記憶から抹消してたんだけど、どこで何をしているのか。
 もしかして、あれからずっと人道主義+平和主義を説くためにあちこち徘徊しているのかも――

「……お、恐ろしすぎる……」
「リナ?」
「が、ガウリイ、それ本当なの?」

 恐る恐るガウリイに確認すると、あたしの顔色がものすごく悪かったんだろう、ガウリイは狼狽えながら話してくれた。

「あ、ああ。本当にそっくりさんだった。あ、そっくりで思いだしたが、その前に背の高いほうも似たような人見たんだよな。だから余計に覚えていたというか……。そういやあれはなんだったのかな? なんか勝手に高いところに上って高笑いしてたけど、いきなり落ちてさ。格好もものすごく変なのだったし……」

 ビキビキビキ……と亀裂が深まり、割れる寸前まで追い込まれる。

 マジですか!?
 シャドウに加えて、モノホンのナーガもいるのか!?

 そんな青ざめたあたしを、また覗きこむガウリイ。
 ヤバイ、こんなことをしている場合じゃない。
 シャドウに加え、本物のナーガ――そんなのと鉢合わせなんて冗談じゃない!!

「出るわよ!」
「は? リナ?」
「ここから出るの! 一刻でも早く!!」

 多分あたしの顔はものすごく酷い形相をしていたに違いない。
 ガウリイは反射的に部屋に戻って荷物を持って走ってきた。
 そのままガウリイを捕まえて、翔封界レイ・ウィングを発動し、城壁を越えて飛んでいく。空中でガウリイが心配してあたしを見上げた。

「なあ、本当に良かったのか? アメリアたちに何にも言わなかったし」
「いいの! それよりもこのまま一気にここから離れるわよ!!」
「あ、ああ」

 そしてあたしは力尽きるまでガウリイを抱えて夜の空を飛び続けた。
 ガウリイも大人しくしてくれて、飛び終わったあとは森の中で力尽き、眠りについたあたしを静かに見守ってくれたようだった。

 結局、ガウリイとの関係はうやむやのまま終わったけど、それはいずれ時が解決するかもしれない。
 少なくともあたしはそう思うことにした。
 それよりも、グレイシアさんのこと、ナーガのこと、そしてシャドウたちが何をしているのか――それらを知ることなく、謎のまま終わったことにほっとした。

 

 

一応互いにキャラ考察をさせようかなーと思ったのが切っ掛けな話。
でも全部やったらキリがないのでこの辺で。
基本的にツッコミで、本当のことは不明のままなので、あえてリナとガウリイの仲も中途半端のままにしてみました。

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