こうしてミリーナとの小さなお茶会のあと、今度はガウリイと小さなお茶会をするのがリナの日課になった。
リナは食べることが好きなので、二度のお茶会に関しては問題なく、ミリーナともガウリイとも楽しい時間を過ごした。
ガウリイは最初に言ったように、リナに恋愛感情を見せない。そのおかげで、リナはゼルガディスに注意されていたことを気にせずに、思ったより楽しい時間を過ごしていた。
もちろんガウリイもそれから先を望んでいたが、以前のように気軽に話すことさえもできない状況よりはかなり進歩したものだ。
そして数日が経ち、セイルーン王国第二王女――アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが親睦のため、エルメキア王都エストリアを尋ねる日がやってきた。
***
セイルーンとエルメキアはもともと同盟を結んでおり、友好的な付き合いが続いていた。
今回は、ライゼールに攻め込まれたとき援軍を出してくれたエルメキアに対して、セイルーンの王女はそれこそ山ほどの贈り物を豪華な馬車に数台詰め込み、華々しくエストリアを訪れた。
エルメキアの国民はその行列を見て、セイルーンに対して更に友好的な感情を抱き、そしてセイルーンの危機を救った自国の王を誇らしく思った。
セイルーン王女ご一行が城内に入るまで、エルメキアの国民はそんな気持ちを抱きながら見つめていた。
一行が城内に入ると、すでに王であるガウリイ以下、重臣達が無事たどり着くのを待っていた。
王女の乗った馬車が正面入口に着いた時、入口が開かれて小柄な可愛らしいセイルーンの第二王女――アメリアが降り立った。
アメリアは彼らとは昨年の対ライゼール戦の時に知り合っていたため、国同士の、というより旧友にでも会ったかのように気軽に挨拶を交わした。
しかし、彼らの後ろにいる小柄な栗色の少女を見つけると、驚いて状況も忘れて声が出そうになった。
「どうした?」という心配している声を聴いて、アメリアは慌てて「なんでも」と否定する。
彼らはそれ以上深く尋ねることはなく、アメリアを城内へと招いた。
その夜、エルメキア城はセイルーンの王女を招いて華やかな宴が行われた。
だいぶ暖かくなったせいか、窓が開け放たれている大広間からは、楽の音と陽気な声が城の厨房にまで聞こえるほどだ。
その賑やかな声を聴きながら、厨房では宴に出席している人のために、料理長があれこれと指示しながら料理が作られていく。それらは大広間へと次々と運ばれていった。
大広間へと話を戻すと、宴はガウリイとアメリアを中心に進んでいた。
初めて会う間柄ではないため、ガウリイの大らかさや、アメリアの明るさなどお互い分かっている。そのため話は終始和やかなムードだった。
途中でガウリイは同じ五聖家の者として、シルフィールを紹介し、互いに挨拶を交わした。
シルフィールは物静かなほうで、自ら進んで話すような性格ではないらしい。会話につまり、アメリアはガウリイやゼルガディスなどに同意を求めた。彼らも同じように感じたのか話に入り、なんとか会話が続いた。
アメリアは笑顔を心がけていたが、自分たちよりも遠いところにいる少女――リナのことが気になって仕方なかった。
春先にひょっこり尋ねてきた親友は、なぜかこのエルメキア城にいた。
アメリアから観察するに、どうもゼルガディスの下にいて仕事を請けているらしいことが分かったが、どうしてそんなことになったのか分からない。
リナのことだから、自分の素性は決して明かさないだろう。なら、どうして城内にまで入れたのかが気になる。
見た目は元気そうで、その姿を見れただけでも嬉しかったが、会うと話しをしたくなる。
にこにこと笑みを浮かべながら会話をしているものの、すぐにでもリナの隣にいって、どうしてこうなったのかを訪ねたい気分だった。
けれど、それができないまま宴は終了し、アメリアは客室へと戻ることになった。
リナのことはとても気になったが、彼女の部屋がどこか分からない。
アメリアは大人しく寝台へと上がった。旅の疲れか、アメリアはまもなく眠りの淵へと落ちていった。
***
次の日、リナはいつものようにミリーナとのおやつのために温室へと向かった。
もちろんその後にガウリイとする二度目のおやつの分も持っている。
すでに日課になってしまったこの二度のお茶会だが、今日はいつもと違ってしまった。
「リナ!!」
元気のいい声と共に、勢いよく飛び降りてくる影。
リナは慌てて『浮遊』の魔法を影にかけると、影はゆっくりと地面に着地した。
「アメリア!」
「リナ、元気だったのね!」
がばっと抱きつかれて、リナはバスケットを持ったままよろめく。
それでもアメリアを受け止めつつ、なんとか転ぶのだけは免れた。
「あんたこそ。本当に元気の塊ね」
「だってリナに会えたんだもの!」
「……ありがと」
「でも、どうしてここにいるの?」
リナはアメリアの単刀直入の問いに、どうやって答えようかと曖昧な笑みを浮かべた。
あの妙な出会い方を説明するのは難しい。リナにとってあの出会いでどうしてあそこまで気に入られたのか、いまだにわからないのだ。
いや、多少は分かってきたのかもしれない。
リナの能力と、そして気軽に話せる相手が欲しいという二つ。
「ええと……まぁ、話すと長くなるからほとんど割愛するけど……」
「ええ!? ちゃんと説明してくれないと分からないわ!」
「いやだって、あたし自身もよく分からないうちにこうなっていたというか……」
「よく分からない?」
「そうなのよねぇ、気がついたらここで働くことになっていたのよ。でもここはご飯はおいしいし何杯お代わりしても文句言われないのがいいわね。そうそうお給料もいいのよ。ああ、でもやっぱり王都だし、ましてや城内だから盗賊いぢめができないのが難点なのよねぇ」
リナは一気に語り、一人でうんうんと何度か頷いたのに、アメリアはどう返していいか分からなかった。
それでも、ゼフィーリアを出た後のリナに目的がないということは知っていたので、適当にしていたらそうなったのだろうと推測した。
「でも本当に意外だったわ。おかげであの時、叫びそうになっちゃったもの」
「あはは……そういえば連絡しようと思ったんだけどねえ。でもあたし身元不明だから、手紙とかそういったのは多分チェックされていると思って」
本来、城で働くというのは、身元がしっかりとしていていなければならない。
しかも王の側近であるゼルガディスの下で直に動くため、本当なら身元どころかそれなりの身分がなければおかしい。
けれどリナにはどちらも証明するものはなく、城内では異質な存在だ。みんな口に出さないが、リナの素性を勘ぐるものがいないわけではない。
そのため、確かにリナの動きはある程度制限されているし、リナ個人で出される荷物(まだ一度もないが)は確認することになっている――と、ルークがそっと教えてくれた。
「そうだったの。でもどうしてそこまでして?」
アメリアの問いに、リナは半分本当のことを、半分は隠して説明した。
一呼吸して考える間をおいて、リナはわざとらしく身振り手振りを添えて話す。
「それは……まあ、が……陛下がたまたまお忍びで外に出ていた時、暗殺者に狙われているところを魔法で助けることになっちゃって。それにまだ狙われているみたいだし、だから一段落するまではここにいて手伝おうかな、って」
自分の感情は一切見せず、リナは事実だけを口にした。
感情を出さないことを心がけていたせいか、リナはアメリアが『魔法で』と答えた時に眉をひそめたのに気づかなかった。