「リナ♪」
「駄目っ!」
「いいじゃないか」
「駄目ったら駄目ったら駄目っ!」
オレはリナが逃げられないように自分の上に乗せて抱きしめ、そして耳元で囁いた。
すでにリナが戻ってきて二週間が経っている。
そして、その間ほぼリナはうちに来て一緒にご飯を食べて一緒に眠る……ということが続いていた。
だから……
「なんでだぁ?」
「だって……」
オレは今、リナに同棲しようと言っているのだった。
オレは一人暮らしで、そしてリナは金色の魔王の配慮で今の時代にやってきたため、家族がない。
だからオレの住むマンションで互いにお隣さんとして暮らしているのだ。
「考えても見ろよ。不経済だぞ。いつも二人でいるんだし、部屋だって十分な広さがある。だから……さ」
リナの髪をすきながら、リナの弱い部分――耳元で囁く。
その行為にリナは頬を赤く染めながら弱々しくオレを睨んだ。
だけどリナ。そんなの睨んだうちに入らないって。
「リナは不経済とかって嫌いだろ? だったら一緒に住んだほうが経済的だぞ」
リナは妙に固いところがあって、どうも成人するまでは――と思っているらしい。(ちなみにリナは今十八歳。リナが『重破斬』使った後の年だ)
だけど、オレにしてみると、あと二年別々の生活なんて嫌だった。
また、リナがこの世界では家族もいなくて一人で頑張って生活しているのも、オレにとっては気になるところだった。
少なくとも一緒に住めば、オレの部屋でオレが家賃を払えばリナの負担も減るんだ。
確かにオレはまだ学生で、あんまりリナにしてやれないけど、そういったことくらいはできるはずし。
「でもでも……」
強情だな。
「リナ」
「……っ」
名を呼んだとたん急におとなしくなる。
リナはオレに自分の名を呼んでもらうことに対して、思い入れがある。
金色の魔王との約束で、リナの名を思い出すかどうかという賭けに、オレがリナの名をなかなか思い出さなかったのがあるのか、オレがリナの名を呼ぶとリナは自然と大人しくなった。
「ずっと離れてたから側にいたいんだ、リナ……」
「……」
「リナ、側にいてほしい……リナ」
オレは何度となくリナの名を繰り返し耳元で囁く。チラと見るとリナは頬を赤く染めはにかんだ表情をしている。
よし。もうちょっとだ。
「なあ……リナ」
「ガウリイ……」
「リナ」
「でも、迷惑でしょ。ガウリイだって大学があるのに?」
それでも弱々しく抗議するリナ。
落ちそうでいてなかなか落ちない。
「だから、さ。一緒に住めば家賃とか一部屋分で住むだろう? 二人で住むのも十分な広さあるし…だからお互いのためにもいいと思うんだ。な?」
リナを少しずつゆっくりと説得する。
リナと一緒にいたいという思いはあるけど、それがお互いのためだとも思ったから。
「リナ」
「……し、しょうがないわね……」
やっとリナが折れて、同棲を認めた。
やったぜ! と内心思いつつも顔には出さずにリナを更に丸め込む。
「うん。そうすればお金もたまるぞ」
「……そね」
「そうして、結婚資金溜めような♪」
「……はあ!?」
あ、しまった。つい本音が……
「あ、あのさ。リナは考えたことないか?」
ドキドキしながらリナを納得させる言い訳を思案する。
「なにを?」
「だから、さ。ずっとこうしているってこと。それは結婚に繋がらないか?」
別に誓約なんていらないけど、それが一番確実な方法だから――
「リナ」
「ガウリイは…」
「ん?」
「ガウリイは、あたしの全てを受け止めてくれるの? あたしは……あたしは……」
リナが感じる罪悪感。
オレという存在のために、世界全てを犠牲にしようとしたこと。
それはきっと時が経っても癒せないだろう。だけど、側にいて支えてあげたいと思う。
少なくともリナが感じる罪悪感はオレによるものだから。
「もちろん。記憶がなくてもずっと求めてたんだ。逃がすわけないだろう?」
わざとふざけた感じで雰囲気を柔らかくする。にっこりと微笑めば、リナもつられて笑った。
「もう一度言うよ。オレの側にずっといて。リナ」
「……はい」
こうしてオレはリナとの同棲生活を手にいれた。いや、ほぼ結婚か?
だけど、こうして名前を呼んで、呼ばれて――それがどんなに嬉しいことか。
「リナ」
「なあに? ガウリイ」
何度でも呼ぼう。愛しい人の名を。