「ふんふふん~♪」
あたしは一人で町をぶらついた後、上機嫌で宿へと戻った。
今はガウリイだけじゃなく、ゼル、アメリアと四人で旅をしていて、ガウリイとゼル、アメリアとあたしの二部屋を取っていた。
宿に戻ったとき、アメリアはもう戻っていると聞いていたので、あたし達の部屋のほうにごく普通に「ただいま~」といって入ったのだが――
「あ、アメリア!?」
目の前のアメリアは、ベッドの上に乗って、コップを壁に押し付け、それに耳をつけている。
「あ、リナ! しーっ!」
「しーって……」
あんたの挙動不審な様子を見れば、声だってでるわ。
と脱力しながら 「どうしたのよ?」と尋ねる。するとアメリアは手を振って招きよせた。
気になったのでベッドへ行くと、アメリアにコップを渡される。
「なんかすごいことになってます」
真剣な表情で言うアメリアに、あたしは、隣は確かガウリイたちの部屋だっけ、と思いつつ、同じようにコップを壁に押し付けた。
『……うっ』
『ここはどうだ?』
『ああ……いい……そこ、だ……』
そんな二人のやり取りに、ベッドが軋む音まで聞こえ――
「やだ、これって……」
「そうなのよ! ベッドで本を読んでいたら、ちょっと前からなんか音がして……つい、気になって聞き耳したら……」
そこまで言うとアメリアは真っ赤になってしまって黙り込んでしまう。
それにしても人の恋愛ごとに興味津々でクビを突っ込むくせに、いざそういったことを前にすると、意外と普通の反応だ。
まあ、赤の他人なら多少のゆとりがあるんでしょうけど……仲間のそういったところを見てしまうと(この場合聞いてしまう、か?)、ショックなんだろうな。
しかも、その二人がホモだったなんて。(決め付けてる)
それにしても、こんな美少女を前にして、どうしてその気にならないのか気になっていたんだけど……なるほど、ガウリイってばホモだったのか。なら、あたしに手を出すなんてこと、あるわけないか。
おお、となると、あたしに魅力がないわけじゃないってことね。なるほどなるほど、今までのガウリイの態度がよく分かったわ。
「まあ、仕方ないわね。性癖だけは矯正できないでしょうし……」
「でもでも……」
「とにかくさ。こうして聞いていても精神的によくないから、なんかおいしいものでも食べに行きましょ」
「りなぁ……。でもでも、ガウリイさんならともかく、ゼルガディスさんもなんて……」
「おひ……」
ガウリイならともかくってどういう意味よ?
軽く突っ込みを入れたかったけど、ショックのほうが大きかったんで、とりあえず聞き流して、再度アメリアを促した。
「ほら、ちゃんと立って」
「……はいぃぃ」
あたしはアメリアを誘い出し、一階に行って二人で自棄食いをした。
自称保護者が、仲間がホモだったことは、あたし達はかなりショックだった。
***
「おーリナたちじゃないか。早いなあ。もう腹減って我慢できなくなったとか?」
ふて腐れて椅子に座り込んでいたあたしたちに、明るいガウリイの声が聞こえる。見れば爽やかなガウリイとゼルの姿。
「うるさいわね! あんたたちなんか知らないわよ。ね? アメリア?」
「そうです。わたしたち好きにしますから……ゼルガディスさんもガウリイさんも好きにすればいいんです」
言い切ると二人でぷいっとそっぽを向いてしまう。
「おい、リナ……?」
「どうしたんだ? アメリアまで……」
さ すがにあたしたちの態度が気になって、二人して覗き込む。
ガウリイがあたしの肩に触れたとき……
「イヤッ! 触らないで! 不潔よ!!」
あたしはそういうことに慣れてないから、つい過剰反応してしまって、ガウリイの手をばしっと払いのけた。
「リ、ナ……?」
「ガウリイなんて汚いわ! ゼルと……ゼルとそんな仲だったなんてっ!!」
「おい、リナ?」
「別に性癖は治らないかもしれないけど! ゼルが好きならあたしたちなんか置いて、二人で旅をすればいいじゃないっ!」
「そうです! わたしたち二人の邪魔をしていたなんて……っ!」
ああ、可哀相に……アメリアは涙ぐんでじゃって……。
「お、おい。なに言ってんだよ? リナ?」
不思議がっているガウリイに、ゼルが肩をポンと叩いた。
「どうやら……俺たちは、二人の間でそういう仲だと勘違いされたらしい。どうしてかは知らないが……」
「へ!? そ、そういう仲!? どういう意味だ?」
とぼけているのか、ゼルとあたしを交互に見るガウリイに、あたしは我慢できずに叫んだ。
「とぼけないでよ! あんたちがさっき部屋でヤってるのを聞いたのよ!! 昼間からさかるなんて恥ずかしいわっ!!」
「そうです! ゼルガディスさんなんてあんな声出して……ふっ不潔です!!」
「うわあああっ!! お前らっ!?」
「ちょっと待て! 何を想像したんだ!? 何を!?」
あたし達に声のでかさに、二人は慌てて口を塞ぐ。
最初は抵抗してふがふがやっていたんだけど、あまりの馬鹿力にいい加減疲れて抵抗力が弱まる。
するとガウリイたちは、あたしたちの口から手を離して、顔が真っ赤な状態でぼそりと呟いた。
「なんて、勘違いしてんだよ……」
「まったくだ……」
「違うの?」
「違うんですか?」
ガウリイとゼルが一つため息をついた後、ゼルが口を開いた。
「あのだな。俺は最近肩凝りが酷くてな。とはいえ、俺の体は固いから、普通のマッサージでは効かない。だから力がある旦那に頼んでやってもらったんだ」
「…………は? 肩こり? だってあたしたちベッドが軋む音まで聞いたのよ!?」
「お前……そんな細かいところまでチェックを……ちなみにそれは、ついでに腰のほうまで揉んでたからだ。あのベッド、妙に軋むんだよな。スプリングが良すぎるのかな?」
ガウリイの答えに、あたしたちは自分たちの部屋のベッドを思い浮かべた。
確かに少し動いただけでも音を立てるくらい、なんて言うのかな、スプリングが良すぎるのか、ベッド自体が悪いのか……どちらにしろそんな状態だった。
「あ……」
「……マジ?」
気づくと途端に恥ずかしくなり、今度はアメリアとあたしが頬を染める番だった。
「分かってくれたか?」
と心配そうに尋ねるガウリイに、小さく頷くと、ガウリイがいつものように頭を撫でた。
ちなみに、あたし達がこれ以上誤解しないようにと、それぞれの思いを打ち明けてくれたのは、また別の話で――
ごめんなさい。やってみたかったんです。
お約束のオチだけど、ガウリナじゃなくて、ガウゼルっての。