baby's-breath

baby's-breath

第08話 影響力(4)

夕食後もそのまま談笑を続け、ある程度遅くなってから二人は部屋に戻ることになった。 小さな村では毎日お風呂は無理らしく、もらった桶一杯のお湯でそれぞれ体を清めた後、二人は借りた部屋の扉を閉めた。「はー、なんか慌しい一日だったね」「まあ、こんな...
baby's-breath

第08話 影響力(3)

初めて直面する魔物に対する人々の恐怖。 優花はベルディータの言うとおり、魔物に関して見る目は難しい問題なんだと実感した。「結構……奥が深い問題だったんだね」「ああ。まあ、ユウカはそういった所を見てないからな」「うん。今になってやっと魔物に対...
baby's-breath

第08話 影響力(2)

夕食にはまだ間があるので、二人は部屋から出て村の中を散策を始める。 村の中は至って普通で特に問題はないように見えたが、どこか不安な雰囲気が優花には伝わってきた。「最近、魔物の被害でもあったのかな?」「さあな。未だに村全体がピリピリしているよ...
baby's-breath

第08話 影響力(1)

早いものでベルディータと旅を始めてもう三ヶ月近くなっていた。三ヶ月と言っても、この世界では一年が十三の月に分かれている。優花が元いた世界のちょうど月齢と同じ二十八日が一月なる。初春の一の月から十三の月までで、一の月は優花の感覚からすると二月...
baby's-breath

第07話 はじめての町(5)

ヘレナは驚いた顔をしながら呟いた。「本当に人は見かけによらないわね。でもそうなると本当に師弟関係なのかしら?」「どういう意味ですか」「だって十七……なんでしょう? なら、あの人は弟子というより、伴侶にって考えても可笑しくない年じゃない」「は...
baby's-breath

第07話 はじめての町(4)

疲れる食事を終えたあと、二人は町に出た。 優花はあまり世界のことを知らないため、町の中を歩いてベルディータに説明してもらう。大体どこの町でもあるのは役場、治療院、学校など。優花が思っていたよりしっかりしているようだった。 あちこち見ながら、...
baby's-breath

第07話 はじめての町(3)

二人は宿の手続きをすると、先に食事をとることにした。すでにちらほらと食堂には客がいたが、もう少しすると本格的に混むらしい。 人の少ないうちに食事にしようということになり、窓際の日当たりのいい席に座ってメニューに目を通す。けれど優花には名前だ...
baby's-breath

第07話 はじめての町(2)

町の入口には関所がある。 これも世の中が荒廃して、盗賊だの魔物が増えた結果らしい。ある程度の規模の町だと、城壁で囲んで守るのだとベルディータは説明する。「そうなんだ。そういえばわたしたち中に入れるの?」「大丈夫だ。精霊術士は術士になった時に...
baby's-breath

第07話 はじめての町(1)

宮から一番近い町は、トゥーレという名の町だ。 トゥーレと宮を繋ぐ道の左右には森が広がっている。その中にも魔物がいそうだったが、優花はこの世界の人たちがどんな風に生活しているのか知りたかったため、森の中を歩くのはやめた。 町へと向かう道を二人...
baby's-breath

第06話 旅立ち(4)

『魔物を殺さないで欲しい』 そう言ったファーディナンドの真意を、そして、『消す』と『殺す』の違いを考えて、優花は術式のことを思い出した。「えっと……『消す』なら術式ごと消せるけど、何か別の方法で魔物を『殺した』場合、術式が変わっちゃうんです...
baby's-breath

第06話 旅立ち(3)

用意されていた服はベルディータの女性版のような感じだった。 ハイネックの柔らかい素材の上着に、スパッツのような細身のパンツ。靴は足首くらいまでの長さだったが、ブーツに入るくらいの大きさ。 それらを着てから、ワンピースのような貫頭衣を上から着...
baby's-breath

第06話 旅立ち(2)

優花が笑みを浮かべている間も、ファーディナンドは旅に関しての説明をしていく。 けれど、その説明の半分くらいは優花の中を素通りしていた。おかげでファーディナンドはため息を一つつく。「きちんと聞いていますか?」「え? えっと……なんでしたっけ?...
baby's-breath

第06話 旅立ち(1)

神殿の地下にいる優花には朝が来たのが分からない。それに遅くまで話をしていたせいか、いつもの時間になってもまだ眠り続けていた。 が、あまり遅くなると、ファーディナンドが怒りそうだと判断したベルディータに起こされる。「そろそろ起きたほうがいいぞ...
baby's-breath

第05話 夜明け前(2)

『いや、特に何者ってほどのものじゃないと思うよ。彼女も言っていたでしょ?』「確かにそうだが……魔物を消すなど、何かしら力を持っていそうではないか」 何もわからずに戸惑う――先ほどまでの優花の心境はこういうものだったのだろうか。 思わずそう考...
baby's-breath

第05話 夜明け前(1)

深夜、ベルディータは熟睡している優花の髪を撫でていた。 彼女の髪は自分のこしのあるストレートな髪と違い、細くて柔らかい。指に絡ませると少し癖があるためそのまま絡みつく。撫でた感触は柔らかくて気持ちいい。 何度撫でても起きない優花は、ベルディ...
baby's-breath

第04話 長い夜(11)

時には諦めるということは大事だ。 特に優花のように際立った能力を持たないものなら、尚更そういうことが多い。 今回もそのうちの一つなのだ。 だから我慢するしかない。もう一度、優花は心のなかで自分に言い聞かせる。 我慢、我慢、我慢、我慢、がまん...
baby's-breath

第04話 長い夜(10)

まだ優花が小さな頃のこと。 幼馴染の慎一が、上級生の一方的な言い分に我慢できなくて、口げんかになったことがあった。しまいには手が出るようになり、慎一が殴られるのを見て思わず間に入ったことがある。 その時優花は慎一の代わりに殴られて、すごく痛...
baby's-breath

第04話 長い夜(9)

バクバクとうるさい自分の心臓の音を聞きながら、優花は瞑っていた目を開けてベルディータをそっと見た。 青い瞳からは底知れぬ深さを感じて、彼の心を量りかねた。 なぜ、今ここでこんなことをするのだろう?「どうしても……」「え?」「どうしても行くつ...
baby's-breath

第04話 長い夜(8)

ここに来る前に見た光景を思い出しながら、優花はベルディータに自信満々な表情を向ける。「この世界って、わたしがいた世界――地球よりだいぶ小さいみたいだし。時間はかかるけど、地道にいけばなんとかなると思うんだよねー。完全には無理だろうけど、魔物...
baby's-breath

第04話 長い夜(7)

優花はベルディータから離れると、魔物のいる方向へと一人で向かう。動くと冷たい空気に、薄い夜着しか纏っていない優花は軽く身震いした。 外は寒かった。聖水鏡宮では何かの力が働いているのか、いつも快適な温度だったが、通常は寒かったり暑かったりする...
baby's-breath

第04話 長い夜(6)

一体この部屋に来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか――優花は現実逃避に、ふとそんなことを考える。 窓のないこの部屋は、入ってからずっと蝋燭の明かりのみのため、今何時なのかまったく分からない。 それにベルディータの口から語られる隠された...
baby's-breath

第04話 長い夜(5)

戸惑っていた表情は次第にしっかりとした意思を持ち、ベルディータを見つめる。 知りたいという気持ちから、優花は積極的になっていた。「違う。年齢でいえばヴァレンティーネが一番若い。といっても、私とほとんど大差ないがな」「え? そうなの?」「ああ...
baby's-breath

第04話 長い夜(4)

「そして、人々からは神と崇められてきた一族の名でもある」 やっぱり、と思う。この辺は優花の推測どおりだった。 けれど、今のイクシオン一族は二人しかいない。ベルディータとファーディナンドのみ。「どうしてその一族が、今は二人しかいなくなったの?...
baby's-breath

第04話 長い夜(3)

「さんざん愚痴言ってごめんなさい。ベルさんが嫌じゃなかったら、わたしに力をください」 他に方法はない。帰る手立ても、力のないままこの宮で生きていくのも辛い。 それに魔物を殺すのも嫌だ。それなら力をもらって、少しでも人の役に立ったほうが少しは...