もう1つの『告白』

 ざわざわと騒がしい酒場に、なぜか女とではなく男と飲んでいる。まったく色気のない話だ。
 とはいえ、横に座る男は最近ちょこちょこ一緒になる男――ガウリイは悪いヤツじゃない。相方の少女に『くらげ』と言われて、なにやら掴みどころのない男だが。
 今は、なにやら悩んでいるらしく、少し飲まないか? と誘われた。
 とはいえ、すでに二杯の酒を飲む間があるのに、一向に話す気がないらしい。このまま見捨てて帰ろうかという考えが過ぎった頃だった。

「なあ、告白ってどうすればいいんだ?」
「は?」
「お前さ、よくミリーナに「好きだー!」っていってるじゃないか。よく言えるなあと思って」
「悪いか」
「いや、そうじゃなくて、なんか羨ましいな、と」

 そういや、こいつは一緒にいるリナという小娘を好きだというのは、傍目からも分かるくらい惚れこんでるようなんだよな。
 俺に言わせりゃ、あんなチビで胸もないし可愛げもないガキを……と思うんだが。奥手過ぎて好きだと言えないんだろうか。

「想いを伝えたいなら、口に出して言わなきゃ駄目だろうが」
「そう言うけどな。なんていうか……今さらのような気がしてな。つい……」
「つい、と思っている間に他の男に取られたらどうするんだ?」
「それはないと思うが……」

 すげぇ自信――思わず呆気にとられて言葉をなくす。
 まあ、分かる気もするが。なにせこいつは見た目がいい。長身のしっかりした体躯、均整の取れたプロポーション。さらに悔しいことにその美貌。綺麗なくせに優しい雰囲気を醸し出していて近寄りやすい。
 そんな男が目の前にいれば、他の男に目が行くのは少ないだろう。
 とはいえ、二人の関係は保護者と被保護者という関係らしい。過剰すぎるこの男の干渉は、あいつには鬱陶しく思うかもしれない。
 なにしろ、この男の想い人は、『破壊の申し子』とか『どらまた』とか、なにしろあまりよろしくない二つ名を山のように持っているような女だ。
 そう、何をしでかすか分からない女――

「そういうけどな。アイツだって年頃の女だ。恋愛にだって興味を持つだろう。肉体的にも成長してきて、そういうのに興味を持つ年でもある。お前がいない間に、他の男が声をかけたら、面白がって乗るかもしれないぞ」
「いや、それはない」

 ……即答かよっ!?

 結局こいつは自分にすごい自信があるらしい。
 なのに、なぜ告白するのを躊躇うのか?
 なんかムカついてきたぞ。俺は付き合って話を聞くのが馬鹿らしくなり、席を立とうとした瞬間だった。

「あっちのほうは、オレが相手してるし」

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「はあぁぁあああぁぁぁっ!?」
「いや、だからさ。旅してると二人きりの時もあるじゃないか。だからお互いに――ってことで。あいつも年頃で興味あったみたいだし。だから、そういうのは解消していると思うんだ」

 こ、コイツ……保護者とか抜かしているくせに、やることはやってるのかよ!?
 お、俺なんかミリーナとキスさえしたことないってのに……。
 自然に持っていたグラスを握り締めた。
 のほほんとしているヤツの顔を思い切り殴りたくなる。いや、殴るだろ、普通。誰も文句言わねぇぞ、この場合。

「じゃあ、何にも問題ないじゃないか……」

 俺は震える声で怒りを抑えながら言う。まったく、ただ単にノロケじゃないか。

「いや、それがさ。お互いにストレス解消に、ってことで、好きだって告白して付き合ってるわけじゃないし」
「は?」
「そう思うと心配になるんだ。オレとするのはただ単にそういうのに興味があるからで、オレのことをどう思ってるんだろう? って。いや、嫌いなわけはないと思うんだ。嫌いだったら、いくら興味があるといっても、そういうことをする気にはならないだろ? でもあいつ、ああいうことには疎いから、どれだけそういう気持ちがあるのか分からなくって――」

 もー言葉が出ねぇ……ってのはこのことだろうか。
 俺が絶句している間も、ガウリイは自分の心情を吐露していく。しかも俺にとってはよだれが出そうなほどに羨ましい話をな!
 いい加減馬鹿らしくなって、投げやりに呟いた。

「だったら聞けばいいだろうが」
「だからそれが出来ないから苦労してるんじゃないか。もしなんとも思ってないって言われたらすごいショックじゃないか。ずっと一緒にいて、やることもやってるのに、当たり前だと思って告白しても、リナにその気がなかったらどうするんだよ!?」

 あ、アホらしい。やることやってるくせに、肝心なこと言ってないなんて。
 俺はやけになって、グラスに半分残ったウォッカを一気に呷った。喉に焼け付くような感覚が広がる。
 飲み干すと、ガンッとグラスをカウンタに置いて立ち上がった。

「お前のノロケに付き合ってられるかっ!」
「ルーク?」
「ムカついた分、お前の奢りな。じゃあ俺は寝る!」

 吐き捨てるように言うと、階段に向かって足音荒く歩いていく。肩越しにちらりと振り返ると、きょとんしたやつの顔が見えた。
 ヤツに対する怒りや、羨ましさや、己の情けなさに混じって、世の中には妙な関係もあるものだ――と、改めて思った出来事でもあった。

 

 

昔雑記で書いた別バージョンです。
関係はあってもお互い告白はなし。どう思っているのか不明。
…………なんてことはないと思うけど、一応お話ということで。

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