温くなった香茶を口に含みながら、あたしは今頃になって気づいたガウリイの謎にぐるぐると思考をめぐらせた。
あたしは別に過去にこだわらないほうだと思う。というか、自分があまりいいことをしてこなかったせいか、人に根掘り葉掘り聞かれるのもごめんだし、もう修正の効かない過去のことを突かれるのもごめんだ。
だからこそ、ガウリイの過去を詮索したこともなかった。
でも……
「確かにガウリイって変なとこ多いわね」
「でしょ? 特に女性関係が――」
「いい加減そこから離れろ。というか、一国の王女がそういったことを口にするもんじゃない」
「ええ!? こんなところにいると、そういったことに詳しくなっちゃうんですよ。それにそれが楽しみなのにーっ!」
「そんな楽しみ持つんじゃない!」
あたしがいろいろ考えてるってのに、この娘はーーっ! 持っている香茶のカップが小刻みに震える。
とはいえ、考えてみればガウリイのその……そういったことについては、確かに興味深いかもしれない。
が、反面、三年以上も一緒にいて、あたしに対してなーんもそういう行動を取らないってことは、あたしに魅力がないってことか!?
むむむ。なにやら怒りまで感じてきてしまい、頭の中が混乱しそうだ。
「それにしてもガウリイのヤツ、本当に何考えてんのかしら。ことと次第によっちゃあ、このまま別れたほうがいいのかしらね」
今思うと、ガウリイもあたしにかまけて彼女が作れないとか、でもあたしに対してそういう気持ちがないなら一緒にいるのは意味ないと思う。
あたしだってアイツが邪魔するからイイ人を作れないような気もするし。
うん。ガウリイが帰ってきたら速効お別れかしらね。
「ええっ!? リナそれだけはやめて! 周りが迷惑するわ!!」
そう思っているのに、アメリアが否定する。
さらに、ゼルまで――
「そうだ。そんなことになったら周囲にどれだけの被害が及ぶと思ってるんだ! 世界が滅ぶぞ!」
「こらまてい! あたしゃ歩く最終兵器か!?」
「そうでしょう!?」
「そのとおりだ!」
…………。
速効言い切ってるよ、こいつら。
怒りでこの辺りいったいに呪文をぶちかましたい心境に駆られながらも、そんなことをしたら目の前の二人にそれ見たことかと言われそうなので、一生懸命冷静さを保とうとする。
小刻みに震える手でカップを持ち、小さく波紋を作っている中の香茶を見ながら、くいっと一口飲み込んだ。
「…………と、とりあえずあたしのことはいいから、ゼルだってその辺りどうなのよ?」
必殺、話題すり替え。続けていたらあたしの精神が持たない。だから、話題を摩り替えることにする。
二人は「は?」といった表情になる。よっし、掴みは成功。
「ガウリイの女関係もそうだけど、ゼルだって浮いた話なんて一つも聞かないわ。その辺りどうなのよ?」
まあ、ゼルは合成獣だっていう不幸な境遇があるから、人との付き合いは最小限にしているところがある。
まあ、忠誠心のある部下はいたけど、友人とか恋人ってのは聞かない。
「おおおおお、俺のことはこの際関係ないだろう?」
明らかに動揺したゼルの声。
ふふん。逃がさないわよ。からかわれた分は返さないとねえ?
「あるわよ。さっきはガウリイだったけど、ゼルだって似たようなもんでしょ?」
「俺はまずこの体をだな……」
「でもさ、ゼルだって男よね? ガウリイのことを言うなら、ゼルだって同じじゃないの?」
「それもそうね。その辺はわたしも興味あるかも」
おし、アメリアもその気になったのか、好奇心いっぱいの目をゼルガディスに向けている。
「でしょう? アメリアも気になるわよね?」
「ええ、この際ですからゼルガディスさん、きっちり本音を吐いてもらいましょうか」
「は……吐く………!?」
おし、完全に矛先はゼルにいったわ。
アメリアの興味もゼルにいったようで、あたしの方のツッコミはなくなった。
一方、突然矛先を向けられたゼルは動揺の色を隠せないようだ。
「だってさあ、ゼルって裏の世界に詳しいじゃない。実力だってあるし。だからあんたの容姿を差し引いてもあんたがいい! って女の人だっていないわけじゃないでしょう?」
手までつけてオーバーリアクション気味に話すと、ゼルの顔が青ざめていく。
まー、人間図星を刺されると痛いもんね。
ゼルは「お前な! 俺が気にしていることを……」と震えながら答える。
が、逃・が・さ・な・い。
「そういうけどさぁ、元に戻れない可能性だってあるのよ。ゼロスだって難しいって言ってたじゃない」
「う……」
「ある程度、妥協するってことも考えなきゃ。あんたのその姿でもいいって人がいたら、その人と家庭を持つのも一つの選択肢じゃないの?」
一見、ゼルのことを心配しているような内容だけど、本人にとっては確実に心にダメージを与える言葉。そのせいで、ゼル更に青ざめた顔をした。
でも、ゼロスが言ったように、二つのものを一度混ぜてしまったら、それを元の状態に戻すのは難しいと言っていた。
頑張っているゼルには悪いけど、本当にそういう可能性だってある。
「そうですよ、ゼルガディスさん。そういえばゼルガディスさんって、赤法師レゾの血縁とかって前に言ってましたよね?」
「そうそう、どういった関係かは分からないけど、そんなこと言ってたわね」
「でも、それならゼルガディスさんって結構身分ある人になるのかしら? だとしたら結構縁談とかもありそうだけど……その辺はどうなんですか、ゼルガディスさん?」
レゾの性格はどうあれ、赤法師レゾは世間での評判は悪くない。
それに賢者として名高いため、神官・巫女たちからも魔道士からも一目置かれている。その血を引いているゼルなら、その気になればこんな風に放浪の旅などしなくてもいいだろう。
合成獣された体を戻す方法を探していると言っているゼル。かつてはレゾに対して復讐心も持っていた。
でも、あたしたちはそれ以上にゼルのことを知らないのに気づく。
「考えてみればガウリイも謎だけど、ゼルも十分謎よね。レゾの血縁だってこと。レゾに合成獣にされて復讐しようとしていたこと。今はその体を元に戻そうとしていること――それしか知らないわね」
「そういえばそうよね。わたしたち普通に生死をかけるような旅をしたけど、ゼルガディスさんのこともガウリイさんのこともよく知らないのよね」
そうなのだ。
アメリアはこの国――セイルーンの第二王女というしっかりとした身分が分かっている。
あたしもゼフィーリア出身で商家だということ、姉ちゃんがいること――など、特に隠していることはない。調べればフツー(?)の家族構成が分かる。
でも、ガウリイもゼルも自分から過去を語ることがない。
今まで気づかなかったけど、これって信用されてないってこと?
「なんかさあ、あたしもアメリアも特に昔のことを隠してないけど、ガウリイとゼルはどうして話してくれないのかしらね」
「確かに。もしかして、ゼルガディスさんもガウリイさんも、人には言えないような過去があるんじゃあ?」
やっぱりアメリアもそう思ったか。
実際、アメリアもあたしも、過去を取り沙汰されて問題になるようなことはない。
逆にゼルたちが自分の過去を言えないってことは、やっぱり何かしらあるのかもしれない。
「あー、それは言えてるかも。特にゼルなんかレゾに体をいいようにされたらしいし」
「そうよねえ。ゼルガディスさん、そう考えれば気の毒ですよね……」
やけくそ気味にわざと曲解できるような言い方に、アメリアも頬に手を添えて深いため息と共に呟く。
そんな会話に、飲もうとしていた香茶を思い切りふきだすゼル。
「待てっ!! 体をいいようにされたという表現はなんだ!? ただ単に騙されて合成獣にされただけだ!」
「だから体を弄りまわされたんでしょ?」
「違う! 力をくれると言って騙されて……気づいた時には――」
「それって気を失っている時の間のこと、わからないんですよね?」
「それじゃあ、何があったかわからないわねぇ。やっぱりレゾに……」
実に哀れそうな瞳でゼルを見るあたしたち。
アメリアがどれくらいわかってやってるか分からないけど、きちんと意趣返しは出来たぞ。
おかげでゼルは珍しく取り乱しながら叫んでいた。
「違うんだあああああああっ! 俺は何もされていないいぃぃっ!!」
……って、されたから合成獣なんかになってるじゃん。
一応原作に対しての謎(?)なんで、ゼルアメテイストはないです。
なのでアメリアもバシバシツッコミます。