「梨世、誰と付き合い出したの?」
「ほんと、誰が気になるな」
思ったより食いつきがよく、こちらがたじろいでしまう。
でも、一度口にしたからには、ちゃんと答えないと――と思っていると、運良く(?)クレープ屋さんに着いてしまった。
クレープ屋さんの前にはちょうど客が途切れたのか、最後の客がクレープを受け取っているところだった。
「……先にクレープ買わない?」
「後でちゃんと答えてくれるんでしょうね?」
「うん」
「じゃあ、後にしよ」
そう結論づけで、クレープ屋さんの窓口に行く前に、看板のメニューを見る。
色々なクレープがあるけど、やっぱり最初に食べるのはイチゴと生クリームのクレープがいい。愛美ちゃんはシンプルにチョコクレープ、祥子ちゃんはがっつり食べたいらしく、ツナサラダのお惣菜クレープにしたようだ。あと、飲み物としてそれぞれコーヒーを選んだ。
それぞれクレープを受け取り、近くのベンチに座ってクレープを食べることになったんだけど……なぜか真ん中に座らされてしまった。いつもは適当に座るのに、2人に引っ張られて座ったのは、2人の間。……いつの間にか真ん中だよ。2人の連携プレーが怖い。
「あの、なんでわたしが真ん中なの?」
「もちろん、逃がさないためよ」
「ちゃんと話を聞かなきゃね、ささ、その前に、まずは食べ給え」
祥子ちゃんが芝居がかったように満面の笑みを浮かべて言う。愛美ちゃんも言わずもがな。
「……うん。とりあえず、食べてからでいい?」
好きな人のことを話すなんて、それでなくても恥ずかしいのに、クレープを食べながらなんてとても無理。喉通らないよ。
「了解了解。それくらいは譲歩するよ」と、鷹揚に頷く祥子ちゃん。
「うんうん。梨世ちゃんはそこまで器用じゃないからね」と、苦笑している愛美ちゃん。
わたし、話すの早まったかもしれない――そう思いながらも、とりあえずクレープに口を付けた。口の中に広がるイチゴの甘酸っぱさと生クリームの甘みで幸せな気分になる。
「美味しいっ」
「そうだね。こっちも美味しいよ。はい、あーん」
「じゃあ、こっちもはい」
愛美ちゃんと一口ずつ交換。すると、祥子ちゃんも自分もと主張したので、同じように一口交換。こちらはツナサラダのマヨネーズの味が広がる。お惣菜クレープも美味しい。
「どれも美味しいね」
「そうだね」
「いつまでこの公園で売ってるのかな?」
「また来る?」
看板にはいつまでとは書いてなくて、でも、今度は違うのを食べてみたくて、また来ようねと、約束した。
「あ、でも、梨世ちゃんは彼氏と一緒に来るほうが先かなぁ?」
と、愛美ちゃんが話を急に変えたので、思わず咽せてしまった。
「ぐっ……けほっ。愛美ちゃん?」
「だって、彼氏との時間は大事でしょ? 私だって、やっぱり彼との時間は大事だもの」
「愛美ちゃんの彼氏……」
愛美ちゃんには彼氏が居る、とは聞いていたけど、中2の時のこととか知ってるから、あまり話してくれなかった。こんな風に話題にする事はなかったんだよね。
……気を遣わせちゃってたなぁ。
「今までは、梨世ちゃんが気にするかな、って思って話題に出さなかったけど、話の間に少しくらいのろけるくらいはいいよね」
「うん。少しどころか普通に話して。今まで気を遣わせちゃってごめんね」
「いいのいいの。梨世ちゃんが居ないところでは普通に付き合ってたから」
笑みを浮かべて答えられると、こっちの方が恥ずかしくなる。愛美ちゃんは彼との付き合いもちゃんとあって、友達に対する気遣いもして、わたしよりよっぽど精神面で大人だなって思ってしまう。
「そうか。そういう話もこれから増えるってことか。なら、私も早く見つけないとな」
「祥子ちゃん?」
「いや、私はこの口調とか性格のせいで、なかなかお付き合いしてくれる人が居なくてさ。でも、性格はそうそう変えられるものではないし、大々的に募集でもするか」
祥子ちゃんは真剣そうな顔でそう言うと、クレープをまた食べ始めた。
……人のことは言えないけど、募集しても来てくれる人が居るかどうか……いや、祥子ちゃんなら、きれい系お姉さんという感じなので、居るでしょ。ただ、祥子ちゃんがお付き合いしてもいいと思うかどうかが問題であって。
愛美ちゃんもきっと同じことを思ったのだろう。「手をあげる人は居るだろうけど、祥子ちゃんはその人と付き合えるの?」と返していた。
「むう。それは人によるとしか。意外と居るかもしれないじゃないか」
「居るとは思うけど、祥子ちゃんが気に入らなきゃ意味ないでしょ?」
「……確かに」
むすっとした表情で黙々とクレープを食べる祥子ちゃんは可愛いんだけどね。でも、こんなのは、仲良くなった人にしか見せないもの。他の人から見たら、男の子のような口調に歯に衣着せぬものいいになるので、近づかずに少し距離をとって様子を見ている人は多いんだよね。話せば口調とは違う気の遣い方とか、性格が分かるんだけど……口調で損してると思う。
それにしても、矛先がこちらに来そうなので、早めにクレープを食べ終えるべく、口を挟まずにいた。美味しいクレープを早く食べるために、ゆっくり味わえないのはちょっと虚しい。
でも、食べながら話すほど、余裕はないかな? 愛美ちゃんのように、自然に彼氏の事を話せる気がしない。
そんな、わたしの心情を察してか、2人はわたしがクレープを食べ終えるのを待つかのように、2人で会話している。
その間に食べ終えて、コーヒーを口に含んで一息つくと、待ってましたとばかりに2人は息を合わせたかのように、わたしを見た。
「説明、してね?」
「誰と付き合い出したのかな?」
2人の息の良さに呆れながら、ドキドキする気持ちを抑えつつ、口を開いた。
「実は、2年の近江遥斗さんと、一昨日からお付き合いを始めたの」
良かった。どもることもなく、なんとか言い切った。
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