1日の授業が終わり、ようやく放課後になった。
お姉ちゃんのように、部活に入ってないから、放課後はいつも30分くらい友達と世間話をしてから、図書室へ行くのが日課だ。
……お姉ちゃんの好きな人、ちょっと気になる。
でも、下手に出ていって、高藤さんとお姉ちゃんの仲がおかしくなっても嫌だから、気になるけど我慢我慢。
「梨世ちゃん、どうしたの?」
友達の愛美ちゃんに声をかけられて、意識が現実に戻る。
「ごめん、ちょっと考えごとしちゃって」
「そう? 具合が悪いとかじゃ無いよね?」
心配そうにこちらを見る愛美ちゃんに、「大丈夫だよ」と笑って返した。
ヤバいなあ。遥斗さんに会ってから、好きだという感情とか、他の人はどうなんだろうとか、いろいろ考えてしまう。
今まででのわたしは好きな本を読んで、友達と少し話をして――小さな世界に籠っていたけど、ここにきて人との関わりが気になるようになっていた。
「心配掛けちゃってごめんね」
「別に気にすることじゃないでしょ? それより、たまには寄り道しない?」
「寄り道?」
「うん。祥子ちゃんと3人で。最近、公園にクレープ屋さんの屋台があるの」
公園にクレープ屋さんの屋台と聞いて、行きたいなぁと思うけど、放課後は遙人さんと会う約束をしてたのよね。
「ごめん。ちょっと先約があるの」
「そうなの?」
「うん。一緒に行きたいけど……」
わたしは基本的に先約優先。それに、今から連絡を入れても、遙人さんは図書室まで無駄足になってしまう。
「そっか。じゃあ、明日は?」
「明日かぁ、それなら行きたいな」
遙人さんには、明日は友達を優先することを伝えよう。遙人さんとの時間も、とても大事だと思うけど、友達を蔑ろにするのも違うと思う。
特に、愛美ちゃんは同じ中学校で、わたしがあの人に怪我をさせられた時とか、その後とか、すごく心配して一緒に居てくれた。そんな友達だから、この仲を大事にしたい。それは、好きな人が出来たけど、変わってない。
それに、もうちょっと自信(?)がついたら、遥斗さんのこともちゃんと紹介もしたい。今はちょっと恥ずかしさが先に来てしまって、まともに紹介出来そうにないけど。
「じゃあ、明日行こうね」
「うん。じゃあ、わたしはもう行くね」
「うん。バイバイ」
「バイバイ」
愛美ちゃんに手を振って、わたしは図書室に向かった。
***
次の日、予定通りに友達とクレープを食べに公園に向かう。
歩いている間も話が途切れず、会話が二転三転していく。
今日のことは、昨日のうちに遙人さんに話をしてある。彼は「友達と仲がよくていいな」と言い、快い返事をくれた。
ずっと探していた――とか言っていたから、束縛するタイプかとちょっと心配だったけど、そうでもないみたい。中2の時のことがあるから、干渉してくる人は苦手になっている。でも、遙人さんはちょうどいい距離を保ってくれている気がする。
「梨世ちゃん、どうかした?」
「う、ううん。なんでもない」
遙人さんのことを考えちゃっていて、慌てて頭を振って思考の中から遙人さんを追い出す。
今は、愛美ちゃんと祥子ちゃんとクレープを食べに行くんだから。
「ごめんね、ちょっと考え事しちゃって」
「読みかけの本の続きでも気になるの?」
「ああ、梨世って本好きだからね」
「はは……。でも、本のことじゃないの」
本のことじゃないと言ったら、2人はものすごく驚いた顔をした。え、そんなに驚くこと? 驚いた顔にわたしのほうがちょっと引き気味になっちゃうんだけど。
「梨世ちゃんが他のものに興味を持つなんて……」
「いやいや、これはたぶん今日の夕飯のメニューについてじゃないか? 梨世って莉里さんと一緒に毎日ご飯作ってるんだろ?」
「あー、そうか。夕飯のメニューは気にしちゃうよね」
あれ、なんか急に主婦染みた内容になってしまった。
確かに、お姉ちゃんとわたしで夕ご飯は作っているけど、冷蔵庫にあるものでメニューは決めるんだけどな。アレンジレシピとか、お姉ちゃん得意だし。さすが料理部。
「……違うけど」
少し控えめに訂正を試みる。
すると、「違うの?」と2人の声がハモった。見事なシンクロだなぁ。
祥子ちゃんは高校からの友達だけど、昔からの友達みたいに付き合いやすい。裏表のないさっぱりとした性格だからかな。はっきりしているけど、自分の意見を押し付けることもなく、人の意見もきちんと聞く。
そんな人と友達になれてすごく嬉しい。
けど、たった数ヶ月の付き合いで、わたしの性格はお見通しらしい。
今回はハズレだけどね。
まあ、わたし自身だって、数日前なら到底信じられないことだもの。
「梨〜世〜? また、自分の世界に入ちゃってるね?」
「ごっ、ごめん!」
やばいやばい。すぐに考え事をしてしまう。
「で、どうしたの? 私たちに言えないこと?」
「そうだよ、心配してるんだからね」
2人して、わたしの顔をじっと見つめてくる。
わたしは覚悟を決めて、
「あ、あのね、その……昨日からお付き合いを始めた人がいるの。そのことを言うのが恥ずかしくって」
頬の熱が高くなるのを自覚しながら、わたしは2人にそう答えた。
その後、2人の「はあっ!?」という、盛大な叫びを聞く羽目になったけど。
うん、なんか、予想通りだ。
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